6月15日(水)
「二十代の後半、僕の頭の中は写真のことと女のことだけだった」
サンパウロ市のフォト・ルポライター、楮佐古晶章(かじさこ・あきのり)さんの、このほど発売された写真集『ミーニャ・ヴィーダ』は、そんな言葉で始まる。 最終章では、「気が付くと四十歳を超え、セニョールと呼ばれる年齢になっていた」。六十一枚の白黒写真と告白体の文章で、十五年間のブラジル生活を振り返った一冊が本書。
といっても、「十六歳の女に本気でほれ」、クラゲのようにフワフワ生き、「ロクデナシ」と他人にけなされた男の、私写真であり私小説である。その内容は、赤裸々で刺激に富む。
路上生活者、夜の女たち、老人紳士のタバコの煙……被写体に漂う倦怠感が印象的だ。「テーマは、いつも自分。つらかったときや苦しいときに書いた」という文章の端々からは、やるせなさと苦悩がにじむ。
一九六三年高知県生まれ。北海道大学農学部林学科卒業後、「インジオが俺を呼んでいる」と思い込んだ。旅行で巡った南米に魅了され、九〇年、JICA開発青年隊制度で来伯。工業移住者協会などで働き、雑誌「オーパ」(現在ブンバ)に長年勤務した。
写真集の出版はこれが初めて。自身の同名ホームページ(http://brasil-ya.com/kajisako/)で掲載してきた作品の中から選んだ。
同世代の友人から寄せられる感想で目立つのは、「昔の自分の生活とも重なる」。サンパウロの「倦んだ時間」を知っている男性諸氏なら、しみじみする場面と言葉にきっと出会う。
「これはいわばライフワーク。今後も第二、三弾を出版していけたら」
印刷・製版はトッパンプレス。リベルダーデ区の高野書店、居酒屋・歩栄野、明石屋などで販売されている。三十レアル。