6月11日(土)
JICA日系社会シニアボランティアの浦田昌寛さん(58)がこのほど、二年間の任期を終えて帰国する。
浦田さんは一昨年の着任以来、温帯果樹栽培の専門家としてサンパウロ州柿生産者協会(APPC、ピラール・ド・スール市)を中心に、柿や他の果樹栽培の技術指導にあたってきた。
同協会の富有柿生産はこの二年間で倍増。欧州への輸出に加え、将来的には日本への輸出も視野に入れている。
帰国を控え同協会関係者と本紙を訪れた浦田さんは「課題はまだ残っていますが、だんだん良くなってきています。これからも、いままで遅れた分を取り返してほしい」と、自らの任期を振り返った。
APPCは二〇〇〇年、柿生産者の相互協力を目的に設立された。現在の会員は六十三人。品種は富有柿で、八割が欧州へ、残りはカナダへ輸出している。〇二年当時、実の落下など栽培上の問題に悩む地元生産者がJICAに専門家の派遣を依頼。翌〇三年七月、浦田さんの来伯が実現した。
浦田さんは熊本県の果実農業共同組合連合会で技術指導を行っていたほか、JICAボランティアとしてアルゼンチンでも栽培指導に携わってきた。
「来た当時は、正直な話、少し時代遅れのやり方だと思いました。(日本で)十年前にやっていたような。せんていなど、日本の最先端の技術が普及できるか不安でしたが、ブラジルで的中しました」。そう振り返る。
「浦田さんが来てから手のひらを返すように変りました」と語るのはAPPC輸出輸入有限会社の城島将男社長。「せんていや製肥など、僕らの気が付かなかったことばかり。勉強になりました」。
浦田さんの指導を受け、APPCの柿生産高は倍増した。二〇〇〇年当時一万ケース(三・二キロ)だった出荷量は、〇四年には四万ケースに増加。今年は五万二千ケースの出荷を見込んでいる。
「人間と同じで、おなかがすいた時に肥料をやる。今までは時期がずれていたんですね。それを的確にしたら収量が伸びてきた」。
APPCの森岡カルロス明会長は「浦田さんは私たちの間違ったやり方を直してくれた。柿だけでなく、他の地域の生産者も新しい技術の指導を受けられたことは大きい。大事なのは浦田さんから教わったことを継続していくことだと思います」と、この二年間を振り返る。
任期を終えるにあたり、浦田さんは柿栽培の解説書「おいしいカキの作り方」を作成した。五百部を印刷。関係者に配布するほか、APPCを通じて希望者の問い合わせも受け付けるという。
各地で実施した勉強会には会員以外の生産者も数多く出席した。指導の依頼を受け、浦田さんはミナス州のピラポーラ、サンタカタリーナ州のラモス移住地などにも出かけた。今年五月に実施した欧州視察旅行には会員はじめ百二十人が参加したという。
現在、APPCの富有柿は欧州を中心に輸出されている。折りしも日本へのマンゴー輸出が解禁となった現在、同協会としても日本への輸出を実現したいところだが、現実はなかなか厳しいようだ。
「ミバエ検疫のための各種のテストなど、多くの費用がかかります。ブラジル政府が腰を上げないと、我々生産者だけでは」と、同協会の江坂雅雄さんは現状を説明する。
着任当時、浦田さんが立てた指導方針は、収量を上げ、品質を向上させ、コストを下げるというものだった。「この二年で収量、収入が増え皆に喜んでもらえました」と語る浦田さん。 「次のステップは、良い品を高く売る、生産から販売まで一貫したシステムを作ること。そういう指導をできる人が来ればいい。今まで遅れていた分を短期間で取り返してほしいですね」と、期待を込めた。