5月13日(金)
ついに日本発の〃日系文学〃が誕生した。リベルダーデで生まれた日系二世の伊藤莉沙さん(りさ、34、横浜在住)の書いた小説『ジ・パラナ・ホテル』は〇一年、朝日新聞北海道支社が主催する第二十二回らいらっく文学賞を受賞した。現在はドン・ペドロⅡ世の人生をテーマにした小説を構想しており、その調査のために帰聖した伊藤さんに、文学にかける想いを聞いてみた。
「たまたまですから」とにっこり謙遜するが、実は芯の強そうなタイプだ。「日系二世である自分が賞をとることで、日本に住むブラジル人の子どもたちにもできるんだと思って欲しかった。それが一番の願いです」。ほぼ十三年ぶりに帰聖した伊藤さんは九日、そう語った。
一九六五年に二十歳で渡伯した戦後移民の父、本田昌一郎さんと、五六年に七歳できた母の間に生まれ、莉沙さんが四歳の時、いったんは家族全員で日本へ引き上げた。
その後、八歳で妹と共にリオへ。十二歳から再び東洋人街に戻り、サンジョアキン街のルーズベルト校に通った。「スチュアーデスになるのが夢でした」とその養成学校も卒業した。九二年に「妹と二人で両親に逢うために観光ビザで日本にいって、そのまま居ついちゃった」と笑う。以来、両親らと横浜に住む。
「日本語は独学です。ほら、少女マンガってふりがながついてるでしょ。辞書引きながら覚えました」。と言いつつも、十二歳から日本語で日記を書いていたというから、日本語能力は筋金入りだ。現在はヴァリグ航空東京支社に勤める。
小説初挑戦で、いきなり受賞した。「〇一年に会社の先輩が、募集記事の切り抜き持ってきてくれ〃やってみたら〃と言われたんです」と振り返る。
審査員は文芸評論家の秋山駿、作家の辻仁成、林真理子、渡辺淳一の各氏と、朝日新聞の進藤隆夫学芸部長らそうそうたる五人。米国など七カ国を含め三十七都道府県から応募された計三百十七編から選考され、みごと受賞した。
タイトルの『ジ・パラナ・ホテル』は、パラナ州のホテルではない。彼女が十五歳の時、家族でロンドニア州を車で旅行した時に一泊した町の名前から来ている。小説では、そのホテルを経営する日系二世の女性が主役となっている。
「本当にジ・パラナの町に日本人のホテルがあったんです。それをイメージして物語を考えました」。
最近、リオを舞台にした小説を書き、ある文学賞にも応募した。「何を書こうかな、とキーボードに手を置いた瞬間に、ストーリーが勝手に出てきました。原稿用紙八十枚分を十日間で書いちゃった」。
現在、構想するドン・ペドロⅡ世の小説は大作になりそうだという。「日本人は悲劇や切ない話が好きでしょ。彼はブラジルを思いながら、パリで死んでいった。日本人の多くはブラジルに王家があったことすら知らない。小説なら、ブラジルの歴史を手にとってもらえると思いました」。
今回は、リオのペトロポリスなどで資料収集した。「髪や目の色が分からないと小説は書けません」。
彼女と共に来社した、日系文学誌にも投稿する高橋英人さんは、「新しい移民文学が日本で生まれた。莉沙ちゃんのような新人類が出てくることで、移民文学が世代交代する。一世には書けないことができる可能性がある。本当に驚異的なことです」と評価し、将来への期待を込めた。
小説『ジ・パラナ・ホテル』は次サイトに掲載中。mytown.asahi.com/hokkaido/news02.asp?c=11&kiji=56