日本語センターが来月『就職のための日本語会話』を刊行するという。デカセギ向けの教材である。センター運営に企業経営感覚を持ち込んだと評される谷広海理事長の、就任以来、目論んできた仕事の一つだ▼センターの事業の柱は、教師養成と教材開発だと思われるが、教材開発はこれまで、学校の「教科書」的なものが主体だった。出稼ぎ支援を絡ませた今度の仕事は、着想を変えてみたものだ▼刊行具体化に際し、日本で就労して帰国した人たち六十人に、日本で日本語に苦労した話を聞き、そんな時はこうする、という実用的な内容にした。改訂を重ねるにしたがって、ベストセラー(最も売れる本)、ロングセラー(長期に渡って売れる本)になる可能性もある▼谷氏は、さきごろ、文協の会長選挙に出馬、結果的に第一次投票後棄権したが、もしかしたら、会長当選と、日本語センターを文協に統合することも視野に入れていたかもしれない。デカセギ向けに日本語教材をつくるのは、文協事業になっていったであろう▼手をこまねいていないで、公的団体として今何が必要なのかを、検討し、実行していくのは指導者のつとめである。センターの新しい特異の教材は、デカセギのサバイバル(不慮の事態に遇った際、冷静に対処し回避すること)のために、という発想があった▼サバイバルの本来の意味に「生き残る」があるが、みんなのために存在する公的団体は、今後、団体自体がサバイバルを常に意識していかねばなるまい。(神)
05/5/13