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コラム 樹海

 甲子園の選抜高校野球――羽黒高校のエース片山マウリシオ(日系三世)は、神村学園戦(準決勝戦)で9回表まで投げきり、ベンチに戻ると、すぐに締まった顔をゆがめ、泣き出した▼9回裏の味方の攻撃は、4点をハネ返す可能性はまったくといっていいほどなかった。打線は、準々決勝戦までは、強力だと評されていた。しかし、神村の野上投手の変化球の前に沈黙した▼片山の涙を見て、戦前の選抜中等学校野球のある試合につけられた新聞の見出し「泣くな、別所、選抜の華だ!」を思い出した。片腕を骨折してもう一方の腕で投げ抜き、敗れた別所。当時滝川中学の投手、プロ入りして南海―巨人▼片山には「泣くな片山、選抜の〃清涼剤〃だ!」という文句を贈りたいと思った。羽黒自体も清涼剤だった。米国育ちの監督に率いられていた。攻守交替の時の機敏さ、片山は無駄な時間を使わず、小気味よく投げる。投手としての守備も抜群。ほとんど表情を変えない▼体力の不足を補う頭脳的なチェンジアップ(速球と同じ投球動作でタマの早さを変えて投げる変化球)で、甲子園の夏冬通じ、山形県勢を初めて4強に進出させるという新しい歴史をつくった。スポーツ留学は、参加するだけでなく、勝利すればなおいい▼片山にしてみれば、不完全燃焼だったのだろうか。力を出し切っても泣けるが、あの表情はどうも「残念」のものだった。まだ、夏がある。マウンドを駆け足で降りるときに、胸の前で十字をきる姿をまた見たい。         (神)

05/4/6