「韋駄天」も迅速機敏な海賊には太刀打ちできなかったようだ。仏舎利を奪って逃げる鬼を追いかけて捕まえるほどの快速を誇る神さまも「魔の海峡」を支配する悪鬼には、とてもとても―ということらしい。マラッカ海峡は海のシルクロードとしても活躍したし東と西を繋ぐ重要な交通の要路であり、古くから戦略的な要地としても知られる▼海賊の話は、隻眼を黒い眼帯で覆った隻脚の大男が剣を振り上げている漫画の世界と思っていたが、今や世界の海に跋扈し顰蹙をかっている。昨年だけでも海賊事件は325件も起きている。このうち45件がマレー半島とスマトラ島間のマラッカ海峡であり被害も大きい。この1000キロの海峡を通る船舶は年に6万隻もあり、日本に石油を輸入する30万トン超のタンカーもお世話になっている▼まさに日本にとっての命綱なのである。曾て―辻正信氏という陸軍参謀がいた。戦後に代議士になりかなり奇抜な発言で世人を驚かせたりもしたが、その有名なものに「マラッカ海峡防衛論」がある。昭和三十四年頃のことだが、マスコミは猛烈な批判、愚論と極めつける進歩的文化人も多かった。が、石油を輸入に依存せざるをえない日本にすれば、むしろ正論と評価すべきだろう▼拉致された井上信雄船長と黒田俊司機関長やフィリピン人の三等航海士の消息は未だに不明だけれども、今は身の安全を祈るしかない。犯人の海賊からは「二千万円の身代金要求」あったらしいのだが、こんな程度の事での「海賊働き」とはいかになんでも情けないではないか。(遯)
05/3/17