3月9日(水)
【エザーメ誌】セヴェリーノ・カヴァウカンチ下院議長の就任で、掛け声だけでなく本当の政治改革が始まりそうだ。これまでブラジルの歴史で底辺の出身者が次々、民間部門で志を遂げることはあっても、大統領や副大統領、下院議長、閣僚、最高裁判事など国家の頂点に達することはなかった。
ブラジルのエリート百人のうち八十人は、立志伝中の人物だ。有産階級の半分以上は、肉体労働者の子息だ。最近、こうした叩き上げられた人達の面構えが変わったようだ。
カヴァウカンチ氏は七十四年前、ペルナンブッコ州のセルトン(過疎地帯)にあるジョアン・アウフレッド市で仕立て屋の息子として生まれた。幼児時代から馬の背を洗って、小遣いを稼いだ。大学で学ぶチャンスには恵まれなかったが、小卒だけでも悔いてないという。政治は、ジョアン・アウフレッド市長を振り出しに実地で学んだ。そして、ブラジルで第三番目のVIPに上り詰めた。
ルーラ大統領もドン底から這い上がった人物。アレンカール副大統領もミナス州の貧しい家庭で十五人兄弟の十番目だった。小学校を四年で中退し、セールスマンで人生行路を歩み始めた。現在はブラジル繊維業界で最大手の一つ、コテミナスの社長。
ブラジルの下院議長は、伝統的に政権の中枢である寡占政治家メンバーの一人が就任した。過去の仕来りでは、格式ある名門の出身が多かった。議会がエリートクラブだったのは、一九四五年までだ。その後、大地主と教授、官僚、労組出身者が議員になった。
閣僚や官僚の顔ぶれも変わった。特に労働者党(PT)の政権獲得後は、省庁の面々が庶民階級に交代した。第一期内閣の閣僚十七人の内、七人は初等教育だけ受けた両親の家庭に育った。グシケン長官の父はお百姓。マリーナ環境相の父はゴム採取人。ドットゥラ都市計画相の父は大工など、政治の変革期を示している。
法曹界にも、学歴と経歴を矛と盾にした時代からの変革がある。高等裁判所のヴィジガル裁判長はマラニョン州の、ウルブの迷路と呼ばれた地方の出身。少年時代から家計を助けるため靴磨きから新聞配達、あらゆる辛酸をなめ尽くした。スナックに働きながら苦学し、今日がある。
ブラジルには、黒人で初めて就任したジョアキン・B・ゴーメス最高裁判事がいる。左官の父の下、八人兄弟の長男だった。父の蒸発後、一家を養った。
下層階級から臥薪嘗胆の思いで志を遂げたブラジルの新枢機卿らは、庶民の代表として乱れに乱れた政治や社会の改革に取り組んでくれるのではないか。頂点に登りつめても、肉体に刻み込まれた数々の苦渋など忘れはしまい。
しかし、政治や社会が余り変化していないことで、カヴァウカンチ下院議長が立ち上がったらしい。同議長は貧乏人かつ無学な出自は全く気にしていない。左翼路線を踏襲するが、北東部地方の豪族程度には納まらない気概でいる。