2月23日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙六日】ローマ法王ヨハネ・パウロ二世が呼吸器疾患の治療のために入院し、法王の周囲が緊張している。法王庁で専らのうわさは、次期法王が教会史上最も微妙な時に就任するということで持ちきりだ。
近く二十五カ国によって発足する欧州連合(EU)の憲法に、キリスト教思想を条文に盛り込むことを拒否する国が多い。カトリック教会の影響が最も強いとされるスペインでさえ、世論調査によれば教会を余り信用していないとする市民が過半数だ。
ヨーロッパのマスコミは法王庁の信頼できる筋の情報として、次期法王の選出を報じている。そこにはサンパウロ市のクラウジオ・フンメス大司教の名前が、ひんぱんに出てくる。同時に教会内に多い進歩派の追放も話題になっている。
カトリック教会の法王選出法はコンクラベと呼ばれ、現代人には理解し難い方法で文字通り根競べだ。法王とはカトリック教会だけを治めるのではなく、地上における神の代理人でもあるという。
スペインでは、教会と政府が政教分離をめぐり対峙している。教会が宗教科目を学校教育に取り入れることと同性愛結婚の阻止、妊娠中絶の禁止などを前提にサパテロ社会主義政権を支持し、現代の風潮に逆らった。
スペインのサパテロ政権は、国民の要求に応え公約に従うと声明を発表した。信仰を法令化しないし、個人の信条は個人の理性に準じるものとした。スペインに端を発した教理論争は、EU憲法の草案で俎上に乗るらしい。
問題を抱えているのは、キリスト教だけでなくイスラム教も頭が痛いらしい。これは、宗教そのものの問題だという。宗教は大体、農業や牧畜が主な産業だった時代に発生した。キリスト教も農牧が根底にある。工業生産が始まってから、宗教が領分を失い始めた。それで失地回復の農業革命を論じる宗教家は、ヨーロッパやブラジルに多い。
離農した地方出身者に農業理想郷を説く宗教家が、北東部地方で農地占拠運動(MST)に合流している。これら宗教家は八〇年代、欧米から渡伯した。旧大陸の前例を新大陸でも実現したいらしい。
ヨーロッパの風潮は、やがてブラジルに上陸する。難病治療の幹細胞利用や遺伝子組み替え問題、脳死の定義、安楽死問題、産児制限、脳疾患胎児の中絶など旧大陸の遺産であるジレンマを、ブラジル社会は引きずっている。