2月10日(木)
味の素株式会社(江頭邦雄社長、本社=東京都)は昨年からの三年間で約一億八千万ドル(約百九十億円)をサンパウロ州に投資して、南米では初めてのアミノ酸製造工場を新設、さらに現有施設の増設することを決め、竣工式などのセレモニーを三日と四日に行った。これは世界二十三カ国に百十四社、合わせて約三万人の従業員を抱え、世界全体の売上げが一兆円を超えるグローバル企業である同社の、世界戦略におけるブラジルの位置付けを大幅に強化するもの。同社が世界ナンバー1を誇るアミノ酸事業の主要原料はサトウキビであり、ブラジルが高い生産技術や経験豊かな人材を有していることから今回の投資となった。
「自動車産業以外では、七〇年代以来の大型投資ではないでしょうか」と式典に出席したブラジル日本商工会議所の田中信会長は、我がことのように喜んだ。「特に食品分野でこれだけ大きなものは珍しい。他の日系企業への大きな刺激になると思います」。
味の素社の広報資料の「この度の投資計画」には、世界全体での大型投資額が二百十六億円であり、うち約百九十億円がサンパウロ州に注がれる。今回の三日に竣工式が行われたリメイラ新工場には六十六億円、四日に定礎式が行われたペデルネイラスには九十五億円が、残りがバウパライーゾ工場の拡張工事に投資される。
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三日午前十一時、リメイラ新工場(サンパウロ市から北東に約百三十キロ)脇の特設会場で、日本から江頭邦雄社長ら役員を含めた幹部五人を迎え、リメイラのシウビオ・フェリックス・シウヴァ市長、州技術開発局代理、日本国大使館から大竹茂公使ら約百人が出席して竣工式が行われた。
新工場で生産されるのは医薬用・食品用アミノ酸。現在、世界のアミノ酸生産量一万六千トンのうち、味の素のシェアは九千トンと約六割。新工場は最終的には四千トンの生産能力を持ち、世界最大規模となる。
江頭社長は挨拶の中で「味の素グループにとって、今日は特別の日だ。日本以外で初めて、この度グルタミン(アミノ酸の一種)を生産することになった。当社の持つ最先端技術を注いだ工場であり、ここから世界へ輸出されるだろう」と英語で語った。
ブラジル各界からの協力に感謝しつつ、「このようなプロジェクトが日伯交流の促進につながればと思っている」と締めくくった。
フェリックス市長は感謝の言葉を述べつつ、先日この地域を襲った集中豪雨で道路が寸断された件に触れ、「州と協力して、この工場へのアクセスは良い状態を保つよう最善の努力をする」と確約した。
大竹公使の祝辞の後、正午ちょうどに盛大に花火が打ち上げられる中、記念プラッカ(プレート)の除幕式が行われた。
最後に同市のカトリック教会のドン・アウグスト神父が祝福した。一行は工場をバスで一巡し、精製プラントを見学した。
ブラジル子会社、味の素インテルアメリカーナ社と味の素ビオラティーナの酒井芳彦社長は、サンパウロ州がアミノ酸の主要原料であるサトウキビの中心生産地であることに加え、「もう四十八年間もこの国で事業をやってきた。経営ノウハウはもとより人材・技術などがあり、生産の難しいアミノ酸も可能だと判断した」と語った。
今回の投資の大半は、ブラジル子会社の利益とJBIC(国際協力銀行)からの融資で調達されたという。