ホーム | 日系社会ニュース | サンバは布団叩き 体のほこり取れる=VAI・VAI打楽器隊 井川裕子さん(41)=駐在員夫人 子供預けて猛練習、5年連続出場へ

サンバは布団叩き 体のほこり取れる=VAI・VAI打楽器隊 井川裕子さん(41)=駐在員夫人 子供預けて猛練習、5年連続出場へ

1月20日(木)

 「サンバって、布団叩きみたいなんですよ」と独創的な主婦的解釈を披露するのは、エスコーラ・デ・サンバ(サンバ学校)VAI・VAIに五年連続、バテリア(打楽器隊)で出場するという珍しい経験を持つ井川裕子さん(41、宮崎県出身)だ。今年のカルナヴァル後、帰国する予定で、最後のパレードに向けて連日練習に励んでいる。
 「すっごい感動したんです」――。朝焼け空に無数の銀色のテープ片が舞う中、巨大なアレゴリア(山車)をはさんで約四千人がパレードをし、勇壮な歴史絵巻を締めくくった。井川さんはカルナヴァル一日目から最後までを、きっちり見た。
 二〇〇〇年のサンパウロ市はブラジル建国五百周年を記念して、全エスコーラが国家建設の歴史を順繰りに再現する、壮大なストーリーが繰り広げられた年だった。その二日目、最後を飾ったのが近代をテーマにしたカルナヴァル常勝チームVAI・VAIだった。
 夫が精密機械メーカー勤めで、その前年九九年十月から駐在する。「でも、その時は別世界の出来事だと思ってた。まさか自分が出るなんて」と笑う。当時、打楽器教室を開いていた翁長巳酉(おながみどり)さんにサンバ楽器を習い始め、その紹介で〇一年から出場しはじめた。
 「初めてパレードに出た時、出発ゲートを抜けた瞬間、グァーッという大観衆の反応に鳥肌が立ちました。優勝してチャンピオン・パレードまで。うわーっ、うわーっ、うわーって感じで、何もかも驚きの連続でした」と興奮気味に語る。最初の二年はアゴゴ(カウベル)、その後はガンザに移った。
 現在、同エスコーラは火、木、日の週三日という厳しい練習を重ね、二月四日深夜零時四十分出発の本番に備えている。「普通に駐在生活をしていたら、絶対に出会うことがなかった人たちと会うことができ、地元の団結を見せられた。ちょっとだけ地元民になれたようで嬉しい」。
 練習は夜九時頃始まり、今年のテーマ曲を一時間演奏し続け、三十分ほど休憩して、もう一回だ。終わる頃には深夜となる。「同じ曲を延々とやると半トランス(夢遊)状態に入る。そうすると、ブラジルの不自由な日常生活で習慣の違いとか行き詰まりとかあるでしょ、そういう日常の滓(おり)を流してくれる」とサンバの効用を語る。
 「バンバンと廻りの音に叩かれて、体のホコリがとれてくみたい」と布団叩きに例える。「いっぱいエネルギーも使うけど、それ以上に貰っている。まるで布団干しして、ふかふかになるみたい」。
 でも翌朝、体はギシギシいう。「バテリアは重労働だもん。次の日はむちゃくちゃキツイ」。
 でも、練習のある日、夫の篤宏さんは早めに帰宅し、子どもと過ごしてくれる。奈津実ちゃん(13)と楓ちゃん(かえで、10)の二人だ。「家族の協力と理解なくしては続けられなかった」と振り返る。
 今年五回目に出場したあと、帰国となる。「最後だから、ぜひ優勝の感激をまた味わいたい」。宮崎県延岡市の自宅に帰ったら、「近所の子ども集めて、岡の上の小学校で楽しくやれたらなぁ」と微笑んだ。