ブラジルの新年展望
1月1日(土)
【エスタード・デ・サンパウロ紙、ポリチカ・エステルナ誌他】二〇〇四年十二月三十一日締結期限の米州自由貿易圏(FTAA)構想は、ついに決着が付かず年を越した。FTAA交渉の締結は、ブラジルにとって農業大国へ向けた桶狭間となりそうだ。明るい展望は、第二次ブッシュ政権のドル安政策。ブラジルなど大口債務を抱える国には朗報といえそうだ。
〇五年の外交課題
〇五年に持ち越された課題として世界貿易機関(WTO)介在のドーハ・ラウンド、FTAA、EU・メルコスル自由貿易協定の三大交渉がある。三位一体の外交課題ともいえる。
ブラジルがドーハ・ラウンドにこだわるのは、農産物の補助金を段階的に撤廃するという合意がその後何ら進展せず、先進国の策略でお茶を濁されたからだ。ブラジルはドーハ・ラウンドで決着を付ければ、他の交渉は平行的に解決されると踏んでいる。
ドル安傾向とブラジル
米政府は〇五年、ドル安政策で貿易赤字を減らそうとしている。外貨建てで借金をした大手企業は、内心ホッとしている。しかし、輸出産業は厳しい国際競争を強いられるので、フルラン産業開発相は為替操作を政府に要請した。
中銀はドルを大量に購入し、豊富な外貨準備高を備えるよう産業開発相が進言した。企業家は金融危機を体験し、心臓の動脈からコレステロールを除去した。金融市場には寒風が吹きそうだ。ブラジルを始め南米諸国は、金融危機に際しての延命術を体得した。
ブッシュ再選とブラジル
ブッシュ政権は三期目がないので国民の機嫌を取る必要がなく、思い切ったことができる。米国の歴代大統領を観察すると、最初は再選を視野に入れ、国民の人気に気を使い大統領主導の政治を行う。二期目は側近らに政治を任せる。側近らは任期終了後の就職先を考えた政治を行う。これが米国政治のパターンだ。
イラク問題とブラジル
イラクへの武力介入は〇五年にどう展開するのか。ブラジルは武器輸出へ本腰を入れる。外務省はイラク関係の情報収集に執心している。米国の政策には建前と本音があるが、イラク武力介入の本音は謎。
サダム・フセイン失脚が目的なら湾岸戦争で、簡単に犠牲も出さずにできた筈。イラクへの武力介入がゲリラ戦に止まらず武装勢力との総力戦になることは容易に想像できたはず。
〇五年、EUの動き
EU憲法を制定しバローゾ前ポルトガル首相を委員長としてEU体制が十一月、始動する。世界覇権が米国からEUへ移るのか。ブラジルは、どちらへシフトするか大きな関心事だ。
〇五年の農業
地政学者は、干ばつに備えてかんがい用水を確保するようにブラジルの農業生産者に警告した。先進諸国がBSE(狂牛病)問題で神経をとがらす中、ブラジル産牛肉が見直される可能性が出て来た。農務省は〇五年、輸出用の全牧牛に鑑識チップの埋め込みを義務つけた。牛の登録基本台帳カードで、各牛をコンピューターで監視するシステムが動き出す。
■工業界は楽観ムード=輸出に加え内需拡大見込む
【エスタード・デ・サンパウロ紙十二月十日】ブラジルの工業界では、強い楽観姿勢で本年を展望し、業績は昨年よりも好調に推移するとの期待感が溢れている―。これは、ジェトゥーリオ・ヴァルガス財団(FGV)が、国内の一千三社を対象に九月末から十月初めにかけてアンケート調査を行った結果判明したもの。この一千三社は年間売り上げ三千六百九億レアルを誇る国内大手企業だ。
調査によると、八三%が売り上げの増加を期待し、六七%が商取引の拡大を確信し、四七%が新規雇用の増加を予測(逆に解雇は七%)し、六三%が輸出、四三%が輸入の増加を見込んでいる。五二%は設備投資の実施を表明した。いずれも成長率五%以上と見込んでいる。
これを受けて同財団のエコノミストらは、工業界の大半が本年度の経済成長を積極的に位置付け、二〇〇四年並みの驚異的GDP(国民総生産)成長は期待出来ないまでも、「妥当な」成長は確実との見方を示した。しかし増設に向けた投資に消極的な企業が多く、(昨年は設備稼働率が生産能力上限といわれる八五%にまで達したにもかかわらず)GDPの持続的成長が懸念されるとの危惧も表した。
今年の売り上げ増加を見込む企業は、工業部門が八三%(否定三%)、消費財が八三%(同一%)、資本財が八六%(同七%)中間財およびサービス業が八七%(同一%)、建築業が八〇%(同一一%)と高率を示している。同財団によると、〇三年のアンケート調査でも〇四年の見通しは明るかったが、いずれも輸出の拡大によるものだった。しかし〇四年の調査は、本年の見通しに内需の増加も含まれている点で一歩前進となった。
昨年の経済成長の最大要因となった輸出については、全社の六三%がさらなる拡大を図ると回答した。〇三年の調査では五五%だった。これに対しエコノミストらは、年末に急進したドル安に触れ、ドル安とコスト上昇で輸出採算は厳しいものとなっているが、今年の早い時期にドル安は解消されるだろうと予測している。これに反し、材料を国外に求める企業は、四三%が輸入の促進を表明した。〇三年は三一%だった。設備投資については五二%が機械や機器の購入計画があるとした。〇三年は四五%だった。
いっぽうで基幹産業の自動車部門は昨年、爆発的な伸びを見せたが、今年も減速することなく推移すると予測されている。昨年の自動車生産は過去最高となる二百二十万台(年初予想より十万台増)で輸出総額は七十五億ドルとなった。今年はさらに加速して生産は二百三十万台、輸出は七%増の八十六億ドルを見込んでいる。雇用も一九九七年以来最高の十万人を超えた。今年はさらに増加の見通しとなっている。
エコノミストらは、中銀がGDP成長率の予想を昨年の五%から今年は三・五%へと下方修正したことにつき、国際原油相場とアメリカの景気動向の影響が大きいとしながらも、最も重要なのは中銀の金融政策とくにSELIC(基本金利)だと指摘している。
■「これからは収穫の時」=折り返し点で大統領語る
【エスタード・デ・サンパウロ紙十二月十一日】「必要なこと、可能なことだけでなく、不可能だと思われたことまでも我々は実行したと考える」。二〇〇四年最後の閣議でルーラ大統領は過去二年間を振り返り、自身の政権がブラジルを危機から救ったという自信を表した。そして「奈落の底に向かっていた国」を立ち直らせたと述べ、現行の経済政策を正当化した。
これまで採用された経済政策は厳しく、理解され難く、批判の的となってきたが、「正しい方向」を進んできたと大統領は強調した。貿易黒字、財政黒字、予測を上回ったGDP成長率などの各経済指標は、過去十年間で最も良好な結果を示したとし、二百万人の正規従業員の雇用創出、対外債務の減少を成果としてさらに付け加えた。
大統領によると、政権発足以来現在までは「厳しい二年間」であり、大衆受けを狙わない政策のため労働者党(PT)は何度も支持を失い、サンパウロ市やポルト・アレグレ市などで市長選の敗北を喫したという。
「まだ二年の時間がある。これからは実りを収穫する時だ」。社会格差や不公平をすべて解消することは約束していないとしながらも、長期的発展と民主主義を浸透させるための基礎は築いたことを大統領は自負した。懸念しているのは社会問題で、現在掛け声だけに終わっている飢餓ゼロ運動を〇五年の最優先課題にするとした。
最後に大統領は、「活発に繰り広げられた」と外交政策の成功を祝い、南米地域統合の重要性を再度訴えた。「覇権主義のない、現代的でより強固な地域統合を構築しつつ、南米諸国とともに発展することをブラジルは計画しなければならない」。