新年号
04年1月1日(木)
援協の特別養護老人施設、あけぼのホーム(グアルーリョス市、竹村英朗ホーム長)では、入所者が週に一度、心待ちにしている時間がある。毎週火曜日の「おやつespecial」だ。
田村昌子さん(五六、岡山県出身)=サンパウロ市=が手作りで、毎回異なる五種の菓子を調理。お年寄り自身が二品を選んで食べる。入り口にはメニューが張り出され、ちょっとした外出気分を味わえる。
十一月十一日午後二時、食堂を覗くと、くずもち、タイヤキ、人参ケーキ、エスフィーファ、三色かんてんが食卓を賑わしていた。「今回が四回目になりますが、献立はこれまで全て違います」と昌子さん。視覚でも楽しめるよう、色彩のバランスにも気を使っているという。
昌子さんがあけぼのホームで奉仕活動を始めて、十カ月ほど経つ(取材時点)。当初は週に二回、自宅から通って、すしや丼ものなど日本食をつくっていた。九月以降は土曜日から火曜日まで泊まり込み。施設の現状を把握してもらいたいという竹村ホーム長の希望で会議にも出席する。
「能力を発揮できる場が与えられて、毎日が充実している。関係者に感謝したい」
夫、陽一郎さん(六〇、佐賀県出身)=サンパウロ市=は国際協力機構(JICA)の元日系社会シニア・ボランティア(〇一年四月~〇三年七月)。同期で援協福祉部に配属された杉本和恵さん=兵庫県在住=が、昌子さんをボランティアに誘った。
七十九歳の母、美智子さんは日本で一人暮し。「元気なうちは、社会に貢献したい」といって、デイケアーハウスでボランティアに励む。杉本さんが話しを持ちかけた時、母の姿が頭をよぎった。
夫の任期が終わると、一旦帰国したが、「絶対に戻りたかったので、サヨナラは言わなかった」。今年一月、ブラジルにシルバー移住。「もちろん、永住するつもり」と言い切る。日本に住む子供たちも、両親の選択に理解を示した。
陽一郎さんは大阪府内の機械メーカーに勤務。二十三年間、アルゼンチン、ブラジルに駐在して海外市場の開拓に努めた。
海外勤務中には、友人、知人を自宅に招いて、食事をすることがちょくちょくあった。昌子さんは材料費をかけないで、多種類の料理がつくれるよう知恵を絞った。日本食の調理方法についても研究。現地の食材で母国の味が出せるよう工夫した。
あけぼのホームでも、まず冷蔵庫にある食材を見て献立を立てるので、施設の出費が抑えられる。「一つの材料で何が料理出切るかを考えるのは、楽しい」。
陽一郎さんも「やりたいことをやり、施設の役に立てるなら幸せ」と妻が外泊することを認める。自身、月曜日の午後から翌火曜日にかけて、あけぼのホームを訪問。昌子さんが料理に腕を振るっている間、サロンで入所者とカラオケを楽しむ。将来は「おやつespecial」とカラオケを組み合わせる構想案も出ている。