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軽視される日系社会の存在=瀬戸際に立つJICAサンパウロ市支所=縮小どころか撤退説まで=〃合理化〃求める日本側=再浮上したステータス問題

12月4日(土)

 【既報関連】国際協力機構(JICA)のサンパウロ支所が、近い将来、縮小撤廃の危機に直面しそうな勢いになっている。独立行政法人化による組織改編で事業の効率化が求められている上、ブラジルにおけるステータス問題が改めて表面化、日本からの人材派遣が困難になっているためだ。小松雹玄ブラジル事務所所長(サンパウロ支所長兼任)は「組織として決まっていることではありません」と縮小撤退説を否定するものの、内部的に支所不必要論者の厳しい批判にさらされている模様だ。サンパウロ支所は今後も日本側に、海外最大の日系社会を抱えるサンパウロの重要性を訴え続けていくつもりだという。議論のまな板にのっているのは、むしろ日系社会の存在価値そのもののようだ。

 現在、ブラジルのJICA職員は、本来の同団体職員という肩書きでなく、「総領事館分室」という名前で活動をしている。
 このステータス問題について、両国の議論はジャミックとジャミス解散(八一年)以後、二十年以上平行線をたどっている。例えば、ブラジル側は日本に同様の事務所を開設した時に、自動車などに関する特恵免除が付与されないかぎり認めないと主張。これに対して日本側が難色を示している。新しい活路を見出さなければ、解決は出来ないとみられている。
 この問題が再浮上してきたのは、JICAが昨年十月に組織改編して独立法人化したため、外務省との関係が希薄化したことに関係する。従来の方法では国内法に抵触する恐れもあり、人材を送りこむことが困難な情勢になってきた。小松所長がサンパウロ支所の支所長も兼務しているとはいえ、次期支所長が赴任するめどは立っていない。
 関係者の一人は言う。「仮に今、ある職員が日本に帰国したら、ブラジルに戻ってこられない可能性があり、人事は凍結されている状態です」。
 このような状況に加え、事業の〃合理化〃が求められている。「一国一事務所」が原則で、「選択と集中」というスローガンを掲げ、アフリカに資金と人材を投入していく雰囲気があるという。ブラジルは〇二年に援助先国第六位だったが、翌〇三年に第九位に落ちた。
 海外で複数の事務所があるのはブラジルだけ。そのため、サンパウロ支所の存続が問われるようになったわけだ。これに対し、ブラジル側は日系社会が存在しているという特殊状況を訴えている。日本側は、事務所一つで大きな事業をする中国のケースを引き合いに出すなどして「例外」の理由を求めており、苦しい状況に追い込まれているようだ。
 小松所長は「組織としての決定事項ではない」と縮小撤退説を否定するが、「そういう議論が東京で行われているかもしれない」と支所のあり方が問題になっていること自体には、首を振らない。
 これまで日本から出張してきた職員と、様々なシミュレーションを行った。その中には、人材確保が困難になっている現在、技術協力の部門をブラジリアに移したほうが効率的に仕事をこなせられるという意見も出たという。
 時代の趨勢としては、移住者支援から、日系人を通じた技術支援や交流にJICAの協力態勢は変わりつつある。
 ただし、日系団体の中枢が集中しているのがサンパウロ市であり、その重要性について、前々から理解を求めてきた。小松所長は「サンパウロ支所を閉鎖すると、人的なつながりが全く無くなり、マイナスが大きい」と強調。予算の額に関わらず、人材は置くべきだと主張している。
 しかし、予算が年々削られている現在、もしゼロとなった時は、人材さえも配置出来なくなる。特殊法人等の合理化計画を受け、改めて表面化したステータス問題。JICAが瀬戸際に立たされていると言っても、過言ではなさそうだ。