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コラム 樹海

  先の週末に遅まきながら「戦後移住の50年」に目を通した。横浜港を出航する移民船の「さんとす丸」が表紙を飾り、あの別れのテープが懐かしく右端に両手を高く掲げて見送る埠頭の人々にも胸が熱くなる。1963年7月2日の撮影とあるから戦後移民の最盛期が下り坂になってきた頃のものだが、左の端っこにはNHKの取材班がカメラで撮影しているのは、恐らくテレビ放映のためだろう▼移民船といえば何と言っても―あの「蚕棚」を思い出す。確か二段重ねの鉄骨で作られたベットであり、隣との境界線は布のカーテンが一枚。あれは戦前からの仕来りだったらしく、移民の人気は余りよろしくはないが、60年代半ばになり移民が減少すると、それほど不満もなかったように記憶している。食事も不味いの評判だったけれども、なかなかどうして山海の珍味には遠いが御馳走が並んだので嬉しかったものである▼さて「戦後移住の50年」だが、全般的には立派な記念誌と言える。とりわけ鈴木正威氏の「戦後移民試論」は読ませるし、今後の移民論議にも大きな影響を与えうると評価したい。最近の日本では移民に関する研究も盛んなようだし、出版物もかなりある。しかし、戦後移民についての論文は極めて少ないと言っていいし、鈴木氏も寄稿文で指摘しているのだが、将来的には「戦後移民史」の編纂が望ましい▼失敗した移住地の研究論文がないのも寂しいし、日本側からの見解もないというマイナスもあるのだが、これらは今後の事として期待したい。   (遯)

04/11/23