日本銀行と言われても遥か彼方の雲の上にあるような存在で馴染みは薄いが、近ごろはさばけてきたらしい。旧館は完成してからもう一〇〇年を越えるが、地下の大金庫を一般公開したり、先の十日にはライトアップが始まり特設舞台では幽玄な能の舞を披露し拍手喝采だったそうだ。旧館の入り口と思しきところに聳える大理石と白の能衣装が奇妙なほどによく似合うのがいい▼日本銀行は一万円や一千円などの紙幣を発行するところであり、日本の金庫番で金利の上げ下げの元締めでもある。その昔には一万田尚登氏という日銀総裁がいて「法王」と呼ばれるほどに権威もあり大蔵大臣も頭が上がらなかったそうだが、近ごろはどうなのだろう。さて―。嘘か真かは知らないけれども、七〇年代の始めまでコロニアではいろんな噂が実しやかに語られたものである。その一つに日本銀行の金庫の話がある▼玄関に「負け組入るべからず」の看板を掲げるほどの人が戦後早くに日本に行く。勝ち組ではあるが、日本が困っているらしいからと金の延べ棒を2本か3本持っての訪日である。この御仁、その延べ棒を持参し日本銀行を訪ね「困っている人を助けて」と申し入れたという。応対に出た職員もびっくりしたらしいが、ブラジル移民だと聞いて感銘したのか特別の配慮で地下の大金庫に案内した▼そこには金塊が山のように積んであり、それを見た老移民は「これだけ金があるのだからやっぱり日本は勝ったのだ」と感動し威風堂々と船に乗り込みブラジルへ向かったという。(遯)
04/10/14