7月28日(水)
【ヴェージャ誌】ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は「ブラジルの中央銀行の独立性とインフレ抑制の元締め論」を二十年前に提唱し猛反発を受けたが、今はその理論が常識となった。反グロバリゼーション推進派のジョセフ・スチグリッツ博士(ノーベル賞受賞者)とは論敵でもある。
ブラジル講演に先立って同氏は記者会見に応じ、次のように見解を述べた。
【もしも、ブラジルの中銀総裁だったら何をする】先ず基本金利の引き下げに挑戦し、同時にレアル通貨の防衛を行う。実質金利(基本金利からインフレ率を差し引いた金利)は、まだ世界最高クラス。しかし、中銀がさらに信頼されるなら情勢は変化する。
【財政収支が均衡しているのに、なぜ高金利政策を続けるのか】ブラジルの財政収支の均衡と債務残高の切り崩し努力は認めるが、国際金融の投資家はまだ半信半疑。ブラジルはいままでに、モラトリアムを七回宣言したのだ。過去二十年間、ハイパーインフレに悩まされた国。インフレが完全に鎮静される確信が得られるまで、しばらく金利引き下げはないとみている。
【九九年以降財政管理は完璧だと思うが、いつになったら国際信用が得られるか】短期的なリスクは解消した。国際市場は、ブラジルにとって有利に展開している。中国貿易は、見通しが明るい。ブラジルの経済成長率を〇四年は三・五%としているが、〇五年は五から七%とみている。七%に達したら外国投資家は、ブラジルを信用するだろう。こうなれば政府は余裕ができ、所得格差の是正もできる。
〇五年に七%の成長率を達成するためには、すぐにインフラを整備すること。十年以内に七%成長が達成できないなら、ブラジルは悪夢時代に逆戻りする。
【七%成長達成のためには、何を提案がするか】マクロ政策は及第としても、ミクロ政策は課題山積。労働者と零細小企業の関係改善、製造業と消費者の関係改善、一部の債務不履行者を恐れて全取引者から高金利を徴収する銀行の改革、現実に即した労働法の改正、国民向け輸出キャンペーンなど提案は数々ある。
【ブラジルへの投資促進のためには】投資促進の前提条件として、次の問題をクリアすること。教育やインフラ整備、司法制度整備、官庁や政府機関の管理能力向上、法令順守など。これを乗り越えれば、素晴らしい発展が約束されている。
【九〇年代初期には、民営化と市場開放が要求された。今度はミクロ改革要求だが、ブラジルは発展するのか】将来の予測は難題だが、現時点では過重債務で資金繰りに苦心している国が、予想通りの結果を出すのは難しい。しかし改革を行えば、必ず結果は出る。当初は時間がかかるが、やがて軌道に乗る。中央集権システムや連邦政府が介入する方法は、おおむね失敗する。
【中国が中央集権システムで二十五年間、九%の経済成長を保っているのは】ブラジルは、中国と比較できない。ブラジルは中国より豊かな国だから、中国並みに成長するのは難しい。中国の金融システムは、目茶苦茶だ。中国は五年ないし十年以内に、金融危機に見回れ大混乱する。ブラジルは沢山の問題を抱えているが、中国よりはマシ。 【米公定歩合を引き上げたら、ブラジルはどうなる】先進諸国は来る六月から十二カ月以内に、公定歩合を一から二%へ引き上げる予想だ。投資家は途上国から資金を引き上げ、米国の債券へ投資するので、ブラジルにとって少なからぬ衝撃となるが金融危機にはならない。
【中銀総裁は、大統領の権限外にあるのか】インフレが抑制されて通貨が安定している国は、中銀が独立権限を持ちインフレの手綱をしっかり握っている国だ。ブラジルの例は、途上国の模範とされている。大衆に迎合して基本金利を下げた国は、後で以前よりもインフレを暴騰させている。中銀に独立性がないと、投資家に恐怖感を与える。大統領命令はインフレ目標だけに留め、後は中銀に任せるべきだ。