ホーム | 日系社会ニュース | サッカーの闘莉王アテネへ=日系帰化人では初めて=大舞台「日本に恩返しを」=心配が〃晴れた〃祖父母 父は「応援に行く」

サッカーの闘莉王アテネへ=日系帰化人では初めて=大舞台「日本に恩返しを」=心配が〃晴れた〃祖父母 父は「応援に行く」

7月20日(火)

  【パウメイラ・ドオエステ市発=下薗昌記記者】アテネに輝け日系人の星――。先日発表されたアテネ五輪サッカー日本代表に、日系三世の田中マルクス闘莉王(トゥーリオ)が選出された。十六歳で単身サッカー留学し、祖父母の生まれ故郷で奮闘しつづけてきた闘莉王は「僕を育ててくれた日本に恩返ししたい」との一身で、日本代表のユニフォームをまとってきた。十六日未明に闘莉王から喜びの知らせを受けたパウメイラ・ドオエステ市在住の両親、祖父母らは「皆さんのお陰。後は、本大会でしっかりがんばって欲しい」と喜びを分かち合った。
 広島県出身の祖父、義行さん(86)と富山県出身の祖母、照子さん(76)を持つ闘莉王は、昨年十月に日本国籍を取得。今年三月に行われた五輪最終予選では守備の要として、三大会連続の出場権獲得に貢献した。
 日本に帰化した故ネルソン吉村やジョルジ与那城の二人の日系人は、予選で涙を飲み、五輪やW杯には出場できなかったため、日系人では初の大舞台となる。
 予選ではレギュラーとして活躍しながらも、本大会に出場できるのはわずか十八人のみ。選出メンバーが発表される十六日は、田中家にとって心待ちでもあると同時に、不安の種でもあった。
 前日の十五日、一家の誰もが口にする話題は、当然五輪だった。「闘莉王は選んでもらえるでしょうか」と照子さんが、心配そうな表情を見せれば、父で二世の隆二さん(51)は「あの子もかなり気にしている。選ばれるはずだけど……」と電話でのやり取りを報告する。母、マデルリさん(48)は昨年、訪日し愛息のプレーを目にしているが、隆二さんは闘莉王の日本での試合は見たことがない。
 「闘莉王が選ばれれば、アテネに行く。そうじゃなければ、もちろん行かないよ」
 初めて息子の勇姿が見られるか、否か――闘莉王から贈られた日本代表のユニフォームを着た隆二さんは、表情を引き締めた。
 ブラジル時間で十六日午前三時、闘莉王本人から「選ばれたよ」と喜びの一報が入った。
 早朝からNHKニュースで喜びを語る闘莉王の姿を確認した両親、祖父母は前日までとは一転して、笑顔、笑顔、笑顔――。
 「ようやく安心しました。後は怪我をせず、頑張ってもらうだけ」と照子さんは、一度も帰国したことがない祖国の代表として孫が五輪に行くことに喜びを見せる。「大丈夫だと思っていたが、最後まで分からないものだからね。ああ、よかった」と隆二さんは、笑顔を見せた。
 日本代表でも特に注目度の高い闘莉王だけに、実家には日本からもマスコミ取材が殺到している。サンパウロ州内でも知る人は少ないパウメイラ・ドオエステ市の名が、この夏、日本で大きく注目を集めそうだ。