5月28日(金)
写真=イタペチの柿祭りでくつろぐ宇都宮夫婦
夫婦仲良くペダルをこぎながらの世界一周。車輪の上の夫婦生活は一風変っている。宇都宮一成さん(かずなり、三六、愛媛出身)とトモ子さん(三六、長野出身)は二人乗り自転車で世界を回っている途中、五月十七日に空路でサンパウロへ到着した。ブラジルは七十三番目の国で、この七年間で七万二千キロを走破したという。二十二日にアチバイアの友人に連れられ、イタペチの柿祭りを見学にきたところで、話を聞いた。
通常より一回り長い、全長二メートル以上もある二人乗り自転車。前後の車輪の両脇に、テント、寝袋、食料などを山のように積んで走る。ハンドルは一つだが、ペダルは二つ。ただでさえ荷物が重いのに、ペダルは連動しているため、息を合わせて同時にこがないと上手に進まない。まるで人生の二人三脚のよう。
一日四~五時間ずつペダルをこぎ、平均五十キロずつ進む。けっして早くはないが、それが「気持ちいいペース」だという。
今年は記念すべき結婚十年目だが、夫婦生活の大半は車輪の上。結婚以前から自転車旅行をしている一成さんは「とにかく自転車に乗っているのが幸せなんです」と世界旅行に出た理由を説明する。トモ子さんは「私はもともと体が弱いんで、途中で帰国することになると思っていましたが、結局ずっと一緒にきました」とのこと。
一九九七年六月に日本を出発して以来、北米、南米南部、オーストラリア、ニュージーランド、アフリカ西岸と東南部、中東、欧州、中央アジア、南アジアの七十二カ国を回って、ブラジル入りした。
一成さんの自転車好きは筋金入りだ。自転車の何にそんなに惹かれるのかとの問いに、「とにかく、物心ついた時には自転車乗ってましたから、なぜと言われても…」とまるで体の一部のよう。「自転車見ているだけでお酒飲めるんですよね」と遠くを見る目つきをする。
愛車には、ある歴史小説の名馬からとった〃松風号〃という愛称をつけた。長旅や一風変った夫婦生活の、いろいろな思い出が詰まっているようだ。
毎日のようにテントを張って自炊をする。お米、スパゲッティ、缶詰が多い。「お腹が減ってはこげないので必ず食べます」。地図見て、買い物できそうな町を確認し、買い置きをする。
アチバイアを出たら、一路マリンガを目指す。その後、イグアス、パラグアイのエンカルナシオン、アルゼンチン、ボリヴィア、ペルー、エクアドルまで六カ月で行く予定。その後は、コスタリカ、北米ロス、中国方面へ。
一成さんは「あと二年は続けたい」と強く希望する。子どもはどうするのと問うと、一成さんはトモ子さんと顔を見合わせた。車輪の上の人生にも迷いはあるようだ。おしどり夫婦の旅は合計七万二千キロ。すでに地球を二周近く回った計算だ。「一説にはギネスブックのレベルという話もあります」と一成さんは笑った。
「石の上にも三年」という言葉があるが、「ペダルの上に七年」はなかなかいない。