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高倉氏出馬 社会的意義は?=「日本との溝埋め」問題提起が可能=識者2氏に聞く

5月21日(金)

 海外在住邦人として初めて国政選挙の舞台に打って出る高倉道男氏。戦後移民の一人でもある同氏の立候補を社会的な意義でどうとらえるのか――。ブラジル日系社会で移民史と政治事情に通じた識者の見解をまとめてみた。
 「日本と日系社会との間に存在する溝を埋める絶好の機会」。戦後移民は社会参画しない傾向があると、指摘し続けてきたサンパウロ人文科学研究所の鈴木正威理事は、高倉氏の出馬にこう期待を込める。
 県費留学生制度や海外日系人大会に対する国への補助金がカットされるなど、日系社会と日本とのパイプは年々弱まる傾向にある。母国に対する諦めの気持ちが、在外選挙での低い投票率にも現れる、と鈴木理事はみる。「確かにドンキホーテ的な存在で、当選するかきついかも知れない。ただ、高倉氏の立候補を通じて我々の意志を日本に伝えるいい機会だ」とコロニア側の意識改革を求める鈴木理事。
 また、一九七六年にパラグアイに移住した高倉氏は、戦後移民。長年、「ブラジルの戦後移民は小市民的で、社会参加しない」との持論を展開してきた鈴木理事は、絶対数では少ないパラグアイから初の国政選挙候補者が出たことをこう分析する。
 「戦前移民が築いたコロニアに移住したのがブラジルの戦後移民。パラグアイでは戦後移民自らが切り開いただけに、高倉氏には『開拓魂』が残っている」
 社会的、経済的に成功しながらも自己犠牲の精神を見せたがらない、ブラジルの戦後移民との気質を比較する鈴木理事は「人材的には豊富なはずのブラジルからこうした候補が出ないことは、忸怩たる思い」と歯がゆさを見せる。
 ただ、近年は県連や援協などコロニア主要団体でも、戦後移民が中心となるだけに鈴木理事は「彼らの体質も変わりつつある。高倉氏を通じて、我々も声を上げる機会になるはず」。
 パラグアイからの立候補を、世界各国の日系社会の共通問題につなげるのが理想図だという。
 フェルナンド・エンリッケ・カルドーゾ前大統領時代に、一時期広報を担当し、日伯両国の政治家と強いつながりを持つ遠山景孝氏は、「ようやく日本も海外在住者の視点が必要だと気付いた証拠。非常に喜ばしい傾向だ」とグローバル化の流れが政治にも反映された、と指摘する。
 先日、YKKの本社副社長に日系人として初めて就任したYKK・ド・ブラジルの石川清治社長と親交が深い遠山氏は「現地在住者が本社役員になるのは初めて。こうした人材活用が日本独特の閉鎖的な社会を変えるはず。同様のことが政治にも言える」と自民党が公認したことを高く評価する。
 また、日系社会の事情を知る人間が、国政の場でアピールすることで、より具体的で親身に立った問題提起が可能だ、と遠山氏は指摘。「日本を長く離れて、初めて気が付くことも多い。国際常識から外れた日本の慣習を変えることはグローバル化した現代には不可欠だ」とも語る。