コラム
自称一介の老単独移民の後藤留吉(ごとうとめきち)さんが、このほど自分史ともいうべき改訂版『雑草の如く生きて』=ブラジル移民の回想=の第四刷、改訂増補版を発行した。類例がない。カンピーナスで梅園を経営、今年九十六歳だ▼この本の初版が出たのは八一年六月。九六年に続・『雑草の如く生きて』刊行、このほうも〇二年まで第三刷と版を重ねている▼なぜこんなにも改訂版が出たのか。後藤さんは人に贈るのが好きだ。口コミで、読みたいという人がたくさん現れ、応えるため文章を新しくし、写真を加えて新しい版をつくってきた。ポ語版も出した▼兵庫県船津村の水呑み百姓の小伜がただ一人この国に来て、生きて来た道を粉飾せず書いてきた(本人のあとがきから)という▼モジアナ線に配耕され、三年後に東山農場に仕事を得た。このとき二十三歳。数年足らずで手腕が認められ、農場内の売店の経営を任された。これが、事業家としての第一歩。あの山本喜誉司氏らとともに働いた唯一の生存者である。三二年の護憲革命では東山農場が戦場になり、戦死者の出なかった〃戦争〃を体験した。独立後、ポリエチレン工場に先鞭をつけるなど、事業家として成功する▼本は、日系移民史・社会史としても価値を見い出せる。後藤さんは、今でも人に会い、話をするのが好きだ。活力があるのだ。自分を九十六歳だと人に告げることによって自身を叱咤しているようでもある。本はさらに改訂増補版が出されそうだ。(神)
04/05/21