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地下経済と貧民街の実状=構造・機能に共通点=行政の介入阻む不文律=税法と労働法の改正を

5月19日(水)

  【ヴェージャ誌】グスターヴォ・フランコ中央銀行元総裁は、税法と労働法の欠陥がブラジルの産業を限界状況へ追い込み、疎外された企業や市民をアングラ(地下)経済とスラム街(貧民街)へ送り込んだという持論を展開した。
 大都市の周辺に無法地帯で公共サービスもないスラム街が散在するように、産業の周辺に散在するのが脱税と違法取引で営業するアングラ経済と同元総裁はみている。双方には、共通性と相互関係があるという。
 リオの場合は、それが顕著だ。政治の貧困が社会疎外者のスラム街を生み、大企業のような資金力と組織力、技術力を持たない企業が、一般企業とは異なるルールのアングラ経済を生んだとしている。
 スラム街は「見えない壁」で隔離されている。壁の中には不完全で未整備だが法律があり、スラム街の色々な権利や所有権が存在する。行政は、この壁の手前までしか届かない。壁が行政の介入を阻んでいる。
 スラム街にはスラム街の条例から証明書、税金、サービス、私設警察などの非公式な自治体組織がある。スラム街とその他の二つの世界を隔離している壁は、不安定で常に移動変化し、固定したものではない。都市とスラム街の境界線は、助け合い排斥し合いながら共存している。
 都市では許されないことが、スラム街ではまかり通る。税法も労働法、環境規制法もない。犯罪組織がスラム街を統治するのに、見えない壁は好都合だ。犯罪組織が、スラム街の私設自治体として君臨する。住民は私設自治体から独立して、居住はできない。住民は犯罪組織の人質のようなものとなっている。
 アングラ経済も構造上は、スラム街と同じシステムで機能している。モデルはロシア・マフィアのアングラ経済から導入した。アングラ企業は、表向きは普通の企業として堂々と営業をしている。違いは二重会計。行政機関に提出する会計とアングラ市場向けの第二会計とある。税金や社会保障負担金は、お付き合い程度に払い帳簿面は完璧に装う。
 第二会計の剰余金は、足跡を残さないため銀行に預金しないし、正規の取引にも使わない資金。このアングラ・マネーは洗浄するか、アングラ市場で流通させる。アングラ市場には、銀行や物流、サービスなど産業界にある経済活動機構が全部そろっている。
 アングラ市場には不文律のルールがあり、見えないボスの目が光っている。ボスは複数、業種毎に君臨し官公庁も支配下に押さえている。ルールは、見ない、聞かない、言わない、書かない、質問しない。誰も教えないので悟るしかない。
 特価販売や出血サービスは、同業者が迷惑するから厳禁。必ず利益上乗せが、アングラのルール。アングラ市場は、需給の法則では動かない。アングラの法則がものをいう。
 スラム街の住民は住宅の所有権が不安定で、いつ追い出されるか分からないので住まいに金を掛けない。その代わり家電製品や消耗品は身分不相応な贅沢品に囲まれている。アングラ企業も外見は、何をして経営が成り立っているのか分からない。会計簿も数字上では営業活動が見えない。
 スラム街が麻薬密売者の産院なら、アングラ市場は汚職政治家の揺り籠。ブラジルの政治家は、この二つの問題の本質を理解していないか、知らないふりをしている。インフレを退治した知恵でスラム街とアングラ経済も、労働法と税法の改正という妥当かつ持続可能な方法で退治できると元総裁はいう。