3月30日(火)
三十日夕、サンパウロ市から北へ六十五キロ離れたアチバイア市郊外の自宅で東京都出身の花卉栽培、鈴木達弥さん(四一)が頭から血を流し倒れているのを鈴木さんの使用人と近所に住む日本人男性が発見。地元警察に通報したが、すでに死亡していた。調べによれば、自宅からはその日の売上げ金が盗まれていた。地元警察では二十五日午後十一時半ごろ、付近の並木に衝突している鈴木さんの所有車が発見されていることから、その直前に殺害された可能性が強いとみて強盗殺人の疑いで捜査を開始した。鈴木さんは東京農業大学拓殖科を一九八六年に卒業、翌年ブラジルに移住していた。
二十六日から鈴木さんが姿を見せないことを心配した使用人は三十日夕、鈴木さんと交際のあった日本人男性を誘い鈴木さん宅を訪ねた。戸口は開いたままで、鈴木さんは居間の床で仰向けになって倒れていた。頭部から大量の出血があり、顔などに打撲の傷跡などが目立ったという。
戸口にくぎ抜きのような物が落ちているのが発見されており、犯人はこれで玄関扉をこじ開けて侵入。居間にいた鈴木さんを襲いめった打ちしたものとみられている。
鈴木さんは独身で一人暮らしだった。市の中心から約二十五キロ離れた農場兼自宅は未舗装の農道から十五メートルほど離れた坂下にあり、人目につきにくい場所に位置。農場では主に蘭を栽培していた。
証言によると、二十五日昼にカンピーナス市の食料供給センターに花卉を納入していた鈴木さん宅にはその売上げ金が保管されていた。また、最近車を買い換えたばかりだった。
犯人の素性は三十日の時点で明らかになっていないが、二十五日午後十一時半ごろ、鈴木さん宅と同じ部落の路上で、鈴木さん所有のフロリーノ車が木に衝突しているのを地元住民が発見していることから、犯行時間はその直前と推測されている。
鈴木さん宅から五、六キロ離れた場所に住む知人の日本人女性は「最近、この辺の治安状況は落ち着いていて安心していたところだった。ただ、物取りは日常茶飯事で、鈴木さんのところも農薬散布機をとられてことがあると言っていた」と話していた。
東京農業大学のブラジルOB会長の石川準二さんによると、鈴木さんはブラジルに移住した農大OBの近況を伝えるニュースレターを不定期で作成、配布していた。若手の中心的な存在だった。
石川さんは「先週、農大会館に立ち寄っていったばかり。昨日知らせを受けて驚いている。OBでは過去に事故死はあったが殺害は……」と絶句する。
学部の同級生で鈴木さんに一年遅れてブラジルに移住した福井真治さん(四〇、広告会社経営)は「よくアチバイア周辺で若手OBの飲み会を開いていて彼はそのまとめ役だった。二十五日といえば午後六時ごろに向こうから電話があった日です。いま混乱しているんでこれ以上は勘弁してください」と、親友の突然の死を受け入れられない様子だった。
鈴木さんのミサは四月一日に来伯する予定の母親と兄弟二人を待ってアチバイア市のパルケ・フローラ・チバイアで行なわれるという。