3月26日(金)
サンパウロ市の高級街区の治安維持に、生まれは下町ペーニャ区の洗濯屋、身長は百六十センチ未満という日系三世の女性警部が大活躍している。
十七日付ヴェージャ紙が六ページをさいて紹介した第七十八市警の佐藤エリザベッテ署長は二十八年前、書記となり警部に昇格してから十五年がたつ。サンパウロ市に七人しかいない女性警察署長の一人だ(残り八十六の警察は男性が署長)。
佐藤さんが陣頭指揮をとる警察署は高級店舗が集中するジャルジンス区の心臓部エスタードス・ウニードス街にある。署内は一見して清潔で美しい。草花や著名画家の絵が飾られ女性署長らしいセンスが生かされている。こうした署内の改装費は佐藤さんが管轄内の商店主に頭を下げ集めた十六万レアルでまかなった。
一昨年は三百十三件だった事件解決数が昨年、一挙に四倍の一千三百二十六件に上がった。署員の八割を思いきって入れ替えたのが大きな要因だ。管轄内の事件の大半は窃盗、盗難、置き引きなどで、あわせて六百七十軒という高級店舗を訪れる一日平均約一万千人の買い物客を狙った事件が目立つ。
この二十八年間の警察勤務で佐藤さんは幸いにも一人として殺害する必要がなかった。だが、車に乗るときにはハンドバックから三十八口径のピストルを取り出し足元に置くのが習慣。射撃の訓練も怠らない。
気さくな性格で「ドトーラ」ではなく、愛称の「ベッキーニャ」と呼ばれるのを好む。おしゃれに気を配り、手足や髪の手入れはもちろん、署長室では口紅をよく塗り直す。
いま、唯一後悔しているのは「警察の人と結婚したこと」という。互いに危険と隣り合わせの毎日。「妊娠を望んだけれど……」、十六歳の養女をひとり迎え入れた。昨年、日系二世の父とミナス州出身の母を亡くしたばかりだという。