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コラム 樹海

  北海道のニシンが豊漁だという。昨年の漁獲量の一〇〇倍で二千トンを超すのだから大変な海の幸と言える。同僚に利尻島(アイヌ語で鳥が多い島の意味)で生まれ育った人がいて話題の増川町の隣町に住んでいたのだが、この町には今は懐かしき「鰊御殿」が何棟も立ち並び昔日の繁栄を物語っているそうだ▼秋田や岩手と宮城県では「カド」と呼ぶのだが、北海道では「ニシン」であり厳寒の冬に漁場が盛りとなる。この魚で思い出すのは北前船の活躍であり大奮闘である。江戸の中頃から鰊を積んで大阪などへ運んだ船であり、関西では窒素肥料として活用し農産物の生産を飛躍的に伸ばした。山形県の酒田には「本田さま」という大地主がいたが、この祖先も北前船で財を成した人で地元には「本田さまには及びもせぬがせめてなりたや殿様に」の歌もある▼「数の子」は今や貴重品で珍品だけれども、五十年ほど前には乾燥したのを南京袋に入れふんだんにあって余り見向きもしなかったものだ。それほどに毎年々々が「大漁」続きであり北海道の西に面した日本海側には「御殿」が建ち聳えたのである。今年の豊漁がこれからも続くのかどうかは不明ながら、できれば往年の活気と盛況を取り戻したい▼当方は寒村育ちなので塩焼き派だが、京都には名品「鰊蕎麦」があり。これが美味。身欠ニシンを戻して甘辛く煮たのを蕎麦の上に乗せただけなのだがあれは生活の知恵が生んだ美と味だが、他の地方にも滋味豊かな美味求真があるかもしれぬ。(遯)

04/03/25