3月20日(土)
【各伯字紙レジャー面9日~18日、エポカ誌15日】「ブレイブハート」で米アカデミー監督賞を獲得した俳優メル・ギブソン(48)が、12年もの構想歳月を費やし、2500万ドルの私財(総経費約3000万ドル)を投じて完成させた映画「パッション」が3月19日から、ブラジルで公開されている。同映画のストーリーの解釈の違いなどをめぐって、世界中で物議を醸しており、ブラジルでもカトリック教会とユダヤ教の間で摩擦が生じる事態が起きている。
「パッション」とはキリストの「受難」のこと。イバラの冠をかぶせられ、重い十字架の横木を背負い、ゴルゴダの丘で両手両足を釘打ちされた十字架刑は、世界中で有名である。熱心なカトリック信者のギブソンは、4つの福音書をもとに、キリストが死ぬまでの最期の12時間を忠実に描写した。
キリストの最期を描いた従来の映画が「真実を伝えていない」と不満を持っていたギブソンは、今回の映画でリアルな描写にこだわった。セリフは当時話されていたアラム語とラテン語を使用。虐待シーンも写実的に撮影。キリスト役のジム・カヴィーゼルは撮影中、特殊メークに毎日7時間を費やしたという。
ブラジル・フォックス社に招待されて、一足先に同映画を見たブラジル全国司教会議(CNBB。カトリック系)とサンパウロ州イスラエル・ラビ信心会の代表者らは、この映画を「最初から最後まで残酷な描写が続く」と評価。2人は9日に同映画を鑑賞した。
ブラジルでの「パッション」の年齢制限は14歳未満に指定された。フォックスの試写会の前日に同映画の海賊版DVDを購入し、その内容にショックを受けたヤコブ・P・ゴールドバーグ弁護士兼心理士は9日、法務省に対して同映画の上映を禁止、あるいは18歳以上のみ鑑賞を許可するよう訴えた。18日の時点では、年齢制限は変更されていない。
イスラエル信心会のヘンリー・ソベル会長は、「この映画は反ユダヤ精神を明らかに強調している。わたしは、反ユダヤ主義者たちが、映画のでたらめな史実をユダヤ人迫害の理由にしかねないと懸念する」と断言。「凄惨なシーンばかりで、史実から大きく外れていることに憤りを感じる。キリストを死に追いやったのはローマ人であり、ユダヤ人ではない。4つの福音書は歴史書ではない。彼ら(同書の著者マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)は自分の目で事実を見ていないので、内容は信頼性がない」と反発した。
一方、CNBBのドン・ジェラウド・マジェラ・アギネロ会長は、「確かにこの映画は残酷すぎるが、反ユダヤ主義を象徴すると解釈するのはおかしい。キリストの死の責任者をユダヤ人だという風に映画は描写しておらず、ユダヤ人団体がこれほど過敏な反応を示す理由はない」と指摘している。
ブラジルの宗教家の間に起きたような論争は、すでに世界中で起きている。2003年7月から同映画の試写が始まり、キリストの処刑を求めるユダヤ人とみられる群衆の描写にユダヤ人団体が反発し、公開反対デモなどを実施。同12月には、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が、同映画が史実に忠実だとする発言をし、直後に秘書に否定されるという騒動もあった。全米公開日の04年2月25日には、カンザス州で映画を鑑賞中の女性観客が、キリストが十字架にかけられる場面を見た直後に心臓麻痺を起こして死亡する事件も発生した。
俳優メル・ギブソンが自らのパッション(情熱)のすべてをフィルムに焼きつけたという問題作「パッション」。あなたは目を背けずにいられるか?
ポルトガル語名 ア・パイション・ド・クリスト(A Paixao do Cristo)▼製作 2004年、アメリカ・イタリア合作▼監督・製作・脚本 メル・ギブソン▼出演 ジム・カヴィーゼル、モニカ・ベルッチ、マヤ・モルゲンステルン、ロザリンダ・チェレンターノ、ほか▼年齢制限 未定▼公開日 全国で19日から上映中。