3月13日(土)
婦女暴行などの犯罪から身を守るため、護身術を習う女性が増えている。護身術コースのあるジムでは、過去2年間で女性の生徒が20%増加した。護身術として教えられるのは、柔道や空手、ボクシング、カポエイラ、柔術、カンフー、テコンドー、ムエタイなどの武術である。その結果、女性たちは暴力的な男性に立ち向かうことを恐れず、昔よりたくましくなった。その一方で、強盗に反撃するなど危険で無謀な行動に走る女性や、逆に男性に暴力を振るう女性も現れ始めている。
武術は本来、人に危害を加えるものではなく、自己を鍛えるための手段である。道徳を重んじる武術の真髄を理解した人は、自分も相手も傷つけずに争いを避けることができるという。周囲に対するするどい観察力や注意力を最大限に生かして、襲われるような隙をつくらないのだろう。
ブラジルの多くの学校では、基本的な体育教育が行われていない。男の子はサッカーなどを通して体を動かす機会があるが、女の子には「運動したことがない」という子も少なくない。そのためブラジル人女性にとって武術を習うことは、強靭な精神力や護身技術を身に付けるだけではなく、運動能力を高める健康法でもあるのだ。もちろん仕事のストレス解消にもつながる。
「護身術を習う女性のほとんどは銃を持つ強盗に歯向かう気はなく、しつこく誘う男性を追い払ったり、婦女暴行などの被害に遭わないための予防対策として習っている」と説明するのは、ジム『フォルムラ』のパーソナル・トレーナー、マルセーロ・カレガーリさん(36)。
カレガーリさんは女性のための性的暴力対策コースのインストラクターである。このコースを受ける女性は20歳から35歳までの上中流階層の出身者。夜中、1人で外を歩かなければならない自由業者や学生が大半だ。
軍警によると、強盗に抵抗した10人のうち、9人が死亡あるいは後遺症を残す重傷を負っている。カレガーリさんが説明するような女性の方が圧倒的に多いことは幸いである。
しかし、中にはかっとなりやすく、危険を顧みずに強盗をやっつけてしまう女性もいる。アーナ・C・ルフィーノさん(32、療法士)はその1人。「家に帰っておいしいスープを作ろうと思っていたのに、いきなりイヤなヤツ(強盗)が現れて素敵な一日を台無しにした。持っていた野菜を落とさないように逃げようと思ったけど、我慢できなかったわ」。彼女は柔道5段(黒帯は8段)の武道家。強盗は逮捕され、ボロボロの姿をマスコミに報道された。「女性は自分で身を守らなくちゃダメよ」。
カポエイラ歴9年になるクリスチーナ・M・マリーアさん(20、仲介業者)も、強盗に2度抵抗した。2人とも逮捕されたが、片方の件でクリスチーナさんは頭部を負傷している。「現代の女性は昔より意志が強く、問題に立ち向かおうとする。男性も見習わなきゃ」。
このように、ブラジルには凶悪な強盗や誘拐犯が数多くいるが、リスクを承知の上で、ボディガード職に就く女性もいる(同ページの「女性〃用心棒〃の需要増加」を参照)。彼女たちは、顧客を守るために護身術を使う。前記のような無謀な抵抗ではなく、冷静に状況を判断してから行動を起こすプロである。
夫を虐待する現象も
残念ながら、武術が教える道徳心を忘れて腕力に物を言わせる女性や、武術を習ったことがなくても頭に血が上るとすぐ暴力を振るう女性もいる。このような女性たちから虐待される夫やボーイフレンドが、世界中で増えているという。
マッケンジー大学のブラジル人教授が40カ国を対象に実施した調査によると、夫婦やカップルの暴力を伴うけんかは、ほとんどの場合、嫉妬によって引き起こされる(57%)という。
ブラジルに関しては、女性の20%が男性から暴力を受けたと回答しているが、女性から暴力を受けたと答えた男性は10%に過ぎない。「女性から暴力を受けるのは男性として恥である」という考えを持つ男性が多く、実際にはより多くの男性が被害を受けていると考えられる。
リオデジャネイロ州立大学(UERJ)の調査では、夫に暴力を振るったと認めた妊婦が30・6%いるのに対し、暴力を受けたとする妊婦は18・2%だった。
2つの調査を掛け合わせてみると、男性から暴力を受けた女性は9・5%、女性から暴力を受けた男性は9・3%と、ほぼ互角の結果が出ている。ただ重傷のケースをみると、女性の被害者の方が男性より3倍多い。「男性が殴る時は半端じゃない。病院に行くのは女性のほう」と、マイケル・レイチェンハイム医師は語る。
サンパウロ大学(USP)犯罪研究センターの社会学者、ヴァニア・パジナトン氏は、女性が男性から暴力を受けたと警察に告発する際、多くの女性が自分も男性に暴力を振るった事実を伏せるという。
事情聴取で傷だらけの男性が警察署へ出頭した時に、初めて女性側の暴力が発覚する。「女が男をぶたずに、ただ泣くだけなんていう考え方は社会が勝手につくったもの。女性はいつも無抵抗だと思うのは間違い。(ブラジルでは女性を)〃か弱き性〃だと言うけど、全然か弱くなんかないわ」と断言する。「暴力で男女平等をうたうのは原始的な発想。女性は頭がいいのよ。力ずくで男性と対等になるのではなく、もっと頭を使って女性の位置を確保できるはずよ」。
(フォーリャ誌記事参考)