3月 9日(火)
わたしの話は学者がしゃべるよりも知的で立川談志よりも面白いーー。作家の永六輔さんが七日、サンパウロ市のブラジル日本文化協会で講演した。昭和天皇にまつわる秘話から老人医療まで諧謔に満ちた六輔節が全開の二時間。会場の大講堂を一杯に埋めた約千二百人は次々と繰り出される知的でためになる笑話に大喜びの様子だった。
永さんはまず文協・移民史料館の話から始めた。
その展示にブラジルが外国人移民を受け入れた理由が「あるとき来たとしか書かれておらず、なぜコーヒーの需要が伸び労働力が必要になったかについて触れていない」と指摘。米国で英国茶の不買運動が起こりその代替品としてコーヒーが普及したことなど世界史の流れを踏まえて語る重要性を真面目に訴えた。
ついで「信仰、農業、情報、医療、芸能……と話題はなんでもある」とした永さん。そのひとつひとつのテーマについて豊富な体験談を交えつつユーモアたっぷりに語り出した。
東京・浅草にある浄土真宗系の寺生まれであることを明かすと、「ナムアミダブツはボランティアしますよという意味。唱えるだけで困っている人に手を差し伸べないのではいけない」
野良着姿の永さん。農業の話を「農具のスキのうえで肉を焼いたのがスキヤキの由来」と切り出し、話題の中心は「日本で一番古い農家」である天皇家へ。永さんはここでなんと天皇陛下のモノマネを披露した。
「にらんでいる方も客席にいらっしゃる。やらないほうがよかったかな。でもわたしは尊敬している。天照以来、農業を大切にされて今でも手植え作業をなさっているのだから…」
「私が作詞した『こんにちは赤ちゃん』は浩宮様がご誕生になったときの歌です」などと場の空気を取りつくろい、昭和天皇につかえた入江侍従長から直接聞いたというエピソードを三話続けて紹介。昭和天皇のお人柄や、天皇家の親密なご家族関係がしのばれる話に会場は沸いた。
情報の話では政府もメディアそろってデジタル礼賛にある日本の近況を省み「(日本で見かけなくなった)そろばんはいまアメリカ、東アジアの国で見直されている。アナログなものを劣っていると考え切り捨てる日本はみなさんにとって祖国ではなく〃粗国〃」
聴衆の関心を誘った「医療」については「在宅医療の薦め」を熱心に説いた。一般に女性が長生きする傾向にあることから、「老後おじいちゃんはおばぁちゃんみたいにずうずうしく生きよう」とも話した。
また、「今年はかかりつけの医者を作ることを皆さんのテーマにしましょう」とした永さんはその心構えとして「同じ病気の医者を探す」「遠くの医者よりも近くの獣医」などと持論を展開。最後は相撲甚句を独唱し講演を締めくくった。