3月 2日(火)
最近総じて「こざっぱり」などと形容されることも多い日本の現代絵画。「線の世界」にこだわる鈴木安二郎さんの作品群にもそんな気配が漂うのは確かだ。しかしその堅い質感を誇る線からは線による表現を「道」として探求する者の強い意志が浮き立ってもみえる。二日夜からデコ画廊で開かれる「モデュス」展(十五日まで)には鈴木さんの近作四十七点あまりが並ぶ。不惑の年を迎えた作家のゆるぎのない平面構成力と、鋭利なデザイン感覚もまた印象的に残る。
モデュスとはラテン語で方法、手法の意。視覚的に最小限の要素しかもたない線をいかにみせるか、が鈴木さんがここ十年以上かけて追い求めるテーマだ。今展では黒板上に自在に描かれたチョークの白線があったり、集計用紙にカラフルな線が一点のたるみなく引かれていたり。家庭用プリンターで製作したという版画作品は幾色かの線で抽象的な像を結び見る側の想像をどのようにも喚起する。
抽象物はとかく「分かる」「分からない」でその良し悪しが判断されがちだが、鈴木さんは「本当に『分かる』のはとても難しいこと。いきなり分かろうとするのは逆に作品を遠ざけることにならないか」と意見する。「自分は鑑賞者と作品を近づけたいと思っている。だれでもなじみのある黒板・チョーク、家庭用プリンターを用いたりするのもそのため。アートだからといって特別な技術や意識を持ち込みたくない」
自作について語った言葉も忘れ難い。「線そのものをみていただけたら。でも線に具体性や自分の感情が含まれているわけではない。描くときは無というか、平常を常に求めている。それは日本の『道』の感覚に近いのだと思う」。
静岡・御殿場生まれ、東京藝術大学美術学部デザイン科卒。一九九五年にサンパウロであった日伯現代美術合同展に参加。女子美術大学、横浜アートカレッジなどで教鞭をとる。
ベラ・ビスタ区フランセーゼス通り153.電話289・7067.