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デカセギ描くTVドラマ=日系俳優、モデル競演=IPCワールドが製作=セアザやフェイラで撮影

1月22日(木)

 サンパウロの田舎生まれの幼なじみ男女四人がデカセギへ。帰国後、共同で野菜卸業を起業しようと夢見るが、仲間の一人がその資本金を狙った風俗嬢と恋に落ちてしまい……。日本の衛星スカイパーフェクトTVで二十五日から、連続ドラマ「A cor do seu dinheiro(あなたのお金の色)」(一回三十分、十五回)の放映が始まる。製作はIPCワールド(本社・東京都港区)。日系ブラジル人俳優、モデルたちの競演も話題だ。監督・脚本の橋本陽一さん(四九)に聞いた。

 青空市、CEAGESP(サンパウロ州立食料配給センター)そして農村の風景など、日本で働く日系人には懐かしい場面が多く映し出される。小さいころから両親を手伝い、野菜売りとして働く主人公たちの姿も印象的だ。
 橋本さんは「スカイではブラジルのグローボ、レージ・レコルジ両局の番組も提供していますが、そのドラマの登場人物は中・上流以上の階層。デカセギには現実味のない場面がほとんどです。だから、彼らが親しんでいた『ブラジル』をみせたかった」と話す。
 昨年九月から十二月までサンパウロで行われた収録には俳優、モデルは三十五人が参加。主役級には、俳優・歌手のダン・ナカガワさん、モデルのエライニ・エノモトさん、ラジオのDJで人気テレビ番組「パニコ」の脚本家マルコス・アゲナさんら。主人公の一人を誘惑する風俗嬢には雑誌「プレイボーイ」の表紙も飾ったモデルのタイース・ヴァリエリさん、その友人にグローボ局の女優パトリシア・ゴルドさんと脇も固めている。
 台本はわずか一カ月で書き上げた。日本移民のルーツである農業、野菜市場の場面を撮ろうと、映像の方の構想はわりあい早く固まったという。「労働者が、大衆がいる。そんな背景の中で日系人の姿をみせたかった」と橋本さん。「そのうえで、最近、デカセギから帰ってくる二、三世が多いことが脚本のヒントになった」。
 スカイの視聴者のうち、約五万世帯は中年米からのデカセギが占める。一家族四、五人で構成されると考えれば、滞在者の大半が視聴しているとも。
 ドラマ好きの国民性を反映して、設立八年目を迎えるIPCでは、過去に二十本ほどのドラマを製作してきた。どれも一回限りの作品だったが、日本のブラジル人コミュニティーが抱える問題を直視する脚本を心がけてきた。
 二〇〇〇年のクリスマスには、ディケンズ原作「クリスマス・キャロル」のデカセギ版を製作。スクルージ役にはデカセギ派遣業者を当て風刺した。
 また、「ピーターパン」は、「仕事一本で両親にかまってもらえないデカセギの子どもたち、不登校児が集まる」物語。
 会社を首になったことを家族に言えず毎日公園に〃出勤〃する日本人サラリーマンが、若いデカセギたちに「一緒に働かないか」と励まされ、自動車部品工場に再就職する―といった筋書きのドラマもあった。
 「苦労したのは役者集め。役者経験のない人が多く、撮影は彼らの仕事が休みの日だけ可能。正直、製作に限界がありますね」

豊富な人生経験から脚本
日系社会のドラマに拘る

 監督・脚本の橋本陽一さん自身、デカセギ経験者でもある。コーロル政権下の超インフレに直面、九二年からの一年半、岐阜県で働いた。「ぼくは左翼ですから、ブルーカラーでいられることは楽しかった」。その後、日本の伯字紙「トゥード・ベン」で編集長まで勤めたが、「ヘトヘトになり」、千葉県のJリーグチーム、柏レイソルの通訳に転職。カレッカ、エジウソンらブラジル人選手を助けた。
 一九六一年、両親とともに長崎県からリオに移住した。十八歳で米国留学を経て日本へ戻った。故郷で陶芸を習得した一方、上京して早稲田大学の映像サークルに所属する。二十二歳で再びリオへ。ペトロポリスに登り窯をこしらえた。前衛演劇で知られる劇団にも所属し、「ファヴェーラでシェイクスピアをやったり、ブラヒトをやったり……」。
 六年前からIPCで働いている。豊富な人生経験が仕事に生かされている。「これからも日系ブラジル人社会に密着したドラマを製作し続けたい。すでに別の連続ドラマを三本撮る計画もあるんですよ」。