12月27日(土)
ミナス州ポッソス・デ・カルダス市で「センセイ・マツオ」(センセイは先生のこと)といえば、それは柔道の松尾三久五段(六一、東京農大卒)のことである。松尾さんは、去る十二月二十日、試合を含む稽古納めを行い、ことし〇三年の練習を終了した。〇三年は、松尾さんにとって、画期的な年になった。教えるところはポッソス市内の道場、クルビ、学校(市立、州立)六カ所、その生徒総数は三百十人余りに達した。
「さぞかし授業料も…」などと、あらぬ想像は大間違い。松尾さんの柔道指導はいつも〃持ち出し〃で「〇三年は、新しく始めた学校の生徒に柔道着を買ったために、経済的に大いに頭を痛めた」という。学校の道場づくりの際、敷き込む廃ゴム製品もポケットマネーで購入、カミニョンで運んだりする作業もみずからやる。「(生徒が)投げられたとき痛くないように」という配慮なのだ。
松尾さんは、これまで「学校教育のなかでの柔道指導」「ブラジルの学校のなかに柔道場があって、生徒らが一生懸命に、かつ楽しく練習している」「そんな学校がブラジルに増える」――と夢を描いてきた。〇三年は、その一歩を踏み出した年だった、とみずから総括した。「たったこれだけのことに二十五年もかかってしまった」とも言う。
だが、現実はきびしい。生徒のために柔道着を購入しても、低所得層の家庭は、一括払いはできず、分割にしても支払いは容易にすすまない。〇三年がそうだった。松尾さんは、来年はそういうことはしない。柔道着を渡すときは現金ですることが、問題を起こさずに済む一番の方法であることが分かった、と言っている。「単に(支払いが)たいへんだろうから」と情けをかけるのはいけない、という反省である。
〇四年の稽古始めは一月八日。教えるところと、生徒数はつぎの通りだ。エスコーラ・カイキ校(市立、五十人)、マルコ・ジビゾリオ校(市立、五十人)、アロルド・ジュンケイラ校(州立、五十人)、ワシントン・ルイス校(市立、新年から開始。五、六十人の見込み)、クルビ・カルデンセ(六十人)、ポッソス・デ・カルダス道場(市体育局、百人)。有段者の弟子の協力を得て稽古を行う。
一方、松尾さんは一月十五日から二十五日まで、第一回寒稽古を指導するため、パラー州ベレンを訪問する。寒稽古の前に第一回アマゾニア国際柔道大会があるが、大会名に「前田光世記念」を冠そうと主催者のパウロ・ナシメント四段と打ち合わせているという。国際大会にはフランス領ギアナからも選手が参加、寒稽古にも加わる予定。