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石と向かい合う絹谷さん=日本初の彫刻博士=USPで留学兼指導=芸術界の「親子鷹」

12月25日(木)

 石と向かい合うことで、ブラジル社会も見つめたい――。日本で初めて彫刻博士となった東京芸術大学大学院美術研究科の絹谷幸太さん(三〇)が、今年九月からサンパウロ大学(USP)に留学している。文化庁の海外留学制度を利用して自らも、ブラジルの石を研究する傍ら、USPの学生にも彫刻を指導する。素材に対する思い入れを持つことが、作品の出来栄えにも反映するという絹谷さんは「作品を通じてブラジルに何かを伝えられれば」と意気込みを話す。

 絹谷さんは一九七三年、東京生まれ。父は一昨年秋に最年少で日本芸術院会員に選ばれたフレスコ画の第一人者、幸二さん。芸術界の「親子鷹」として今年十一月には、文芸春秋にも紹介されている。
 幸二さんの影響もあり、高校時代から芸術家を目指した絹谷さんは、九六年に日大芸術学部を卒業後、東京芸術大学大学院に進学。彫刻を専攻し、日本で初の芸術博士となった。
 「父からは彫刻では食べていけないと反対されましたが、最後は自分の意志を尊重してくれました」と石へのこだわりを見せる絹谷さん。
 これまでにもポーラ美術振興財団の助成などでドイツやイタリアに留学経験がある絹谷さんだが、ブラジルは初めての体験だ。
 大学二年生の時にブラジル産の岩で制作したことが、ブラジルに目を向けるきっかけとなった。
 「種類が豊富なだけでなく、ピンクや青など様々な色合いがあるのがブラジルの石の特徴です」
 彫刻にも色使いは欠かせない、と考える絹谷さんはブラジルを新たな制作研究の舞台に選んだ。
 来伯以来、すでにポルトアレグレやレシーフェなどの石切り場に足を運び、「石の故郷」を目の当たりにしてきた。
 「マグマが冷えて何千年もかかって出来た思いを巡らすと、石に対する思い入れも深まる」と絹谷さんは、素材への熱い気持ちをこう表現する。
 留学期間中には、自らもアトリエで制作活動も続けるが、USPの学生に伝えたい気持ちもある。
 機械化が進んだことで、木や石など素材のよさを生かさない現代社会に対する警告だ。「かつては木目を生かすなど、人間の知恵が建築でも反映されていた。素材への思い入れを伝えることで、自然との共存の意義を知ってもらいたい」
 森林伐採など環境問題を抱えるブラジルに、伝えたい気持ちを、USPでの授業を通じて訴える。
 これまでの十年間は「背後とのかかわり」をテーマに、作品を見る人との関係を重視してきた絹谷さん。 「考え方はもちろんのこと、作品としても何かを残したい」と力を込める。