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バストス=ブラ拓史料の調査を=報道陣に初公開=地下室に〝超1級〟文書=「どう保存するかが課題」

 【既報関連】空白の移住史を埋めうる貴重な史料が初公開――。バストス日系文化体育協会は三日、バストス市内のブラタク製糸株式会社で記者会見した。九月十三日付本紙六面で報じた通り、海外移住連合会や旧ブラジル拓殖組合のものと見られる文書が旧綿花工場地下室で確認されていたが、今回初めて報道陣に公開された。移住史を研究している劇作家の木村快さんと日系移民研究者の野口敬子さんは、記者会見に同席。「日本でも残っていない超一級の史料。移住史の空白部分を知る手がかりになる」と、その重要性を指摘した。

 地下室は旧ブラ拓撚糸部門があった工場内にある。これまで約五十年に渡って、その存在は公表されていなかったが今年九月、日本の大学院生がバストスの住宅事情を研究するために同市に滞在。元ブラ拓社員で、文協日本語担当理事を務める大高治夫さんに古い史料について問い合わせた。
 五五年に旧ブラ拓に入社し、当時から地下室の存在を知ってはいた大高さんは、ブラタク製糸の谷内利男会長の許可を受け約五十年ぶりに地下室入り。移住者と交わした契約書などが木箱に入ったまま残っているのが確認された。
 昭和五年一月付けで同連合会が発行した給与伝票や、昭和九年の貯金口座台帳などがほぼ現状のまま残っているほか、海外移住組合連合会や旧ブラジル拓殖組合のものと見られる文書が数多く残っている。また、渡部和夫氏の父、喜助さんが自筆で記した借用書などもあったという。
 バストス市研究のため滞在していた野口さんは一日、木村さんらとともに地下室に入り、腐敗し始めている文書の山の一部に伝票や貯金台帳などがあるのを発見。長年密封されていたため、保存状態はよくないが昭和五年一月三十一日付で田付七太海外移住組合連合会理事長が発行した「六〇〇ミルレースなり」と書かれた給与明細などが確認されている。
 終戦と共に、戦前の移民関係文書の大半は、進駐軍の調査を恐れた拓務省によって処分されてしまった。海外移住組合連合会は日本側の移住者送出機関。昭和六年は、同連合会で突然の幹部交代劇が行われ、急速に軍部と結びつき始めた年で、それ以前の日本側史料は特に残っていない。それゆえ、今回の史料に期待が集まっている。
 十年以上に渡ってアマゾン周辺の日系移民などを研究してきた野口さんは「個人管理でないからこそ、この史料は生き延びた」とブラタク製糸に感謝した上で、「日本の歴史の中で穴があいている部分を埋める貴重なもの。日本から史料復元の専門家などを派遣する必要がある」と指摘した。
 研究者ではなく市民の立場で移住史を追い続ける木村さんは「地下室に入るまで半信半疑だったが、まさかあるとは。この貴重な資料をどう活用していくかが今後の課題」だと話した。
 文協では今後、役員会でこの史料の保存管理について検討していく方針だが、問題は資金や専門家の招へいなどの体制作りが当面の問題となる。社のルーツを大切にしたいというブラタク製糸では、三年前から会社に史料館を設置しようとの動きもあったことから、茂原勉専務は「文協には全面的に協力する。まずは、専門家が来るまでしっかり保存したい」と話す。