12月2日(火)
もっと日本文学を出版したいのですが、良い翻訳者が足りません――。二十八日午後、サンパウロ市立マリオ・デ・アンドラーデ図書館で行われた日ポ翻訳者養成に間するシンポジウムで、出版社側から何度も要望が出された。
一方、現役翻訳者側からも、大学レベルの養成コースをもっと増やすと同時に内容を高度化させる必要があるとの意見が出された。日本文化紹介の根本とも言える重要な職業であるにも関わらず、専業従事者は数えるほどしかないのが現状。それにまつわる様々な背景と展望が議論された。
今回のシンポジウムはUNESPアシス校文学部日本語学科と国際交流基金の共催。現在、大学に日本語翻訳者養成コースが設けられているのはリオ・グランデ・ド・スル連邦大学のみ。それ以外では日伯文化連盟にしかなく、大学院レベルでは一校もない。
川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫がポ語で出版されている日本文学のベスト3作家だ。ここ一~二年の間にようやく、大江健三郎、村上春樹が仲間入りし始めた。ある大学教授は「日本文学は欧米での出版の方が遥かに進んでいるため、研究者は英語版で読んで調査しているのが現状」と溜め息をもらす。
第一部「日ポ翻訳者養成とその職業化」では四人が意見を述べた。
その内、翻訳者・通訳者として著名で、日伯文化連盟の翻訳コースでも教授するアルーダ竹田祐子さんは「大学レベルのコースを作る事は重要。その際、日本に関する文化人類学、社会学などの教養が身に付けられるような学際的な知識が得られるような仕組みにし、現実の翻訳労働需要に答えられるようにする必要がある」と強調した。
ベストセラー本『宮本武蔵』を翻訳した後藤田礼子さんは、翻訳業をするにあたって、日本語翻訳者養成学校がないために、英語翻訳者養成学校アルミニに通った経験を述べた。「モダンな速成養成コースを設立するとともに、すでにある日文連のコースなどの存在をもっと広報すべき。それと翻訳者向けの二千頁以上あるような辞典を作ってほしい」と提案した。英語にも詳しい後藤田さんは日英辞典を使って、ポ語への翻訳作業をしている。
第二部「日本文学作品の出版への解決策」では出版関係者が討論した。
日本文学出版の最先鋒を行くエスタソン・リベルダーデ社のアンジェル・ボジャジセンさんは「四年前までは安心して発注できる翻訳者は一人しかいなかった。最近やっと二~三人になった程度」と現状を語る。
同社では翻訳希望者にテストをするが、満足できる文章を提出する者はほとんどいないという。「川端やような伝統的作品だけでなく、現在の日本を代表する作家、ノンフィクション、文学評論なども出版したいが、数少ない翻訳者に発注が集中してしまうためにどうしても遅れる」。
(つづく)
■近年の日本文学出版ブームに足かせ=日ポ翻訳者が足りない=(上)=UNESPがシンポ開催=もっと大学に養成講座を
■近年の日本文学出版ブームに足かせ=日ポ翻訳者が足りない=(下)=大江健三郎全集の計画も=日本文学データベースを