11月27日(木)
夏の終わり、パラナ州イタプアン海岸で始まる淡い恋物語。
今年、武本文学賞小説部門で一席をえた「もう一夏」は、家庭あるブラジル人女性に思いを寄せる日系の青年が主人公、一方の女性は青年に恋人の亡き影をみる。二人の出会いから離別までを描く。
「死ぬまでにはひとつ書きたいと思っていた」
作者の森淳介さんはクリチーバ市在住の八十一歳。年齢を感じさせない瑞々しい文章、設定が審査員をうならせた。
福岡県の生まれだ。一九三三年に家族とともにサンパウロ州カフェランジャに移住した。農作業に明け暮れる毎日に、「親父と百姓していてはだめだ」と思い立ったのは十六歳のとき。 家出を試み、やり場のない気持ちを小説で表現してみたが、出来上がりは芳しくなかった。
「もう一切書くのはやめようと思ったのですが」
ここにきてやり残したことがあるような気がして止まず、再び筆をとるようになった。
日本語もポルトガル語も自学。「学歴はないがよく勉強した」と自負する努力の人。トレスバラス移住地(現アサイ市)に転居後は通訳、病院事務業などに従事した。
物語の青年の出身地はサンジェロニモで、アサイ市のそば。女性はクリチーバ市に住む。実話の部分もある?
「八十になって昔思いにふけることはありますが、うまく嘘をつくのが小説ですから。決してわたしの経験ではありません」
初応募で入選。「寝耳に水だった」そうだが、自信になった。次の作品では「移民史」と向き合いたい、という森さん。畑で蔬菜を作り汗流す傍ら、創作のアイディアを練っている。