11月18日(火)
【エポカ誌】サンバとサッカーに秀でた心の温かい人たち―。こうしたブラジル人のイメージは銃弾で粉々になる。暗い顔で銃を手にした若者―これがブラジル人の現実のイメージだ。世界保健機構によると、ブラジルは殺人事件の総数で世界第一位、十万人当たりの発生率でコロンビアとエルサルバドルに次いで世界第三位を占め、毎年四万五千人以上―十二分間に一人―が命を落としている。
世界人口の三%を占めるブラジルは全世界の殺人件数の一三%を占める。そのうちの約九〇%は都市部で発生し、殺された人の数は交通事故死亡者を上回る。
殺人犯の半数は初犯で、銃を持たなければおそらく殺していなかったと思われる人たちだ。ブラジルには登録された銃が五百万丁、不法所持の銃が三百万丁あるとみられている。銃は殺人事件の九〇%で使用されている。
犯罪に使用される銃のほとんどが国産品で、それらは合法的に輸出された後、パラグアイを経由してブラジルに戻って来る。世界で五本の指に数えられるブラジルの兵器産業は年間約三億五千万レアルの売り上げを誇る。保安設備、裁判制度、刑務所、被害者の人的損失、治療・入院費などを計算に入れると、ブラジルの犯罪に関連する一日当たりのコストはその額に近い三億レアルに上る。法務省の研究によると、サンパウロ、リオ、ベロ・オリゾンテ各市の犯罪対策にかかるコストはそれぞれGDPの五%に相当する。
殺人の七〇%は単純な動機で犯されるとみられている。大都市圏の周辺地域では犯罪仲間を倒すことはその地域で容認される行為となってきている。犯人像と被害者像は男性、若者、貧困層出身と互いによく似かよっている。犯罪多発地域の子どもたちは大都市圏に移動してきた親たちとはちがって、犯罪に染まる傾向が強いという。また、嫉妬や怨恨を動機とする殺人もブラジルでは多く、女性被害者のほとんどが夫や同棲相手、前夫によって家の中で殺されている。
国連の調査によると、ブラジルは所得格差、銃器の容易な取得、麻薬密売、無計画な都市化、家庭崩壊、汚職といった経済的、社会的問題が複合的に交錯しているという。応用経済調査院(Ipea)がブラジリアのパプーダ刑務所で実施した調査は、家庭崩壊が犯罪の要因として決定的なものであることを示している。母親が家庭に不在の割合が殺人犯の間では高く、家の外で働く母親の割合も高いという。
低い犯人検挙率も殺人事件増加の一翼を担っている。リオ州検察庁によると、殺人事件の検挙率はわずか一%だという。警察署内の拷問で強要された自白を除くと、殺人事件の七〇%以上が迷宮入りする。刑務所には受刑者があふれているのに、殺人を犯した受刑者は全国平均で一〇%に満たない。「低い検挙率が犯罪を後押しする一因となっている。殺しても捕まらないのが現状だ」とヴィセンテ大佐は話す。殺人事件の割合が高い米国では、検挙率は七〇%だという。