9月13日(土)
移民の子が、父母たちのブラジル移住後、四十数年を経て、外務省(日本政府)に、報復する――こんな意表をついた長編小説『ワイルド・ソウル』(千三百十四枚)が、このほど、幻冬舎から発行された。著者は垣根涼介氏(〇〇年『午前三時のルースター』で第十七回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞してデビュー。六六年生まれ、筑波大卒)。
ワイルド・ソウルをムリに日本語にすれば「狂気の熱情」とでもなろうか。六一年、衛藤一家は、アマゾンの大地に降り立った。夢の楽園を信じて疑わなかったブラジルへの移住―しかし、それは想像を絶する地獄の始まりだった。逃げ出す場もないジャングルで獣に等しい生活を強いられ、ある者は病に息絶え、ある者は逃散して野垂れ死に……。それがすべて日本政府の愚政―戦後の食糧難を回避する《棄民政策》によるものだと知ったとき、すでに衛藤の人生は閉ざされていた。それから四十数年後、三人の男が日本にいた。
垣根氏は、二カ月間南米で取材、一年かけてこの作品を書いた。ブラジルに来た移民一世たちは、千三百枚余りをどう読むか。少なくとも、最初北伯へ入植した移民は〃うなずく〃ところが多いだろう。「長い」と感じさせず、読ませ、終わったとき「もうないのか」と物足りなさを感じさせる小説である。四六版、全五百二十八ページ、定価一千九百円+税。