新聞社に、記事にしてほしい、とさまざま話に来る人たちのほとんどは、写真を撮られるのが好きだ。撮りましょう、とすすめた際、断る人はきわめて少ない▼写真が掲載されることによって、記事がイベントの紹介であれば、宣伝効果が増すかもしれない。ただ、現実を見ている限り、撮影を断らないのは、自身の写真が紙面に載るのが好きだからだ。世の中には辛辣な人もいて酷評?する。「あ、この人、また、登場していますね…」▼北海道新聞によれば、明治維新の推進者の一人、西郷隆盛は、写真が極端に嫌いだったという。一枚も残されていない。これまで教科書などで見た「絵」は、本物に遠く、最近、直接写実された肖像画が見つかった▼日本に写真技術が伝えられた江戸時代末期、写真を撮られると、身体に悪影響があるとか、取り沙汰されたらしい。しかし、人の好奇心というのは強い。江戸幕府最後の将軍は、写されるのがことのほか好きだったといわれ、残されている▼西郷が、写真に恐怖心とかを持ったとは考えられないので、やはり、根っからの写真嫌いだったのだろう▼写真がたくさん残っていても、だれにも興味を示されない――よりも、後世、どんな人だったのだろう、と取り沙汰される人でありたいと願うのは人情だ。新聞社の場合は報道だから、ぜひ写真を、と請う場合がある。請わなくてもポーズをとるのは、撮られるのが好きなのだ。写真が後に残る、残らないは、さほどの問題ではない。 (神)
03/09/12