9月4日(木)
「移民の存在は、歴史教科書から抹殺されている状態です」と、京都府歴史教育者協議会事務局長の本庄豊さん(四九)は訴える。八月二十一日から二十七日までブラジルに滞在し、移民史予備調査のかたわらアリアンサ移住地で講演活動も行った。今月からは実際に中学校で試験的に移民史の授業も始める予定になっている。
現在の状況を「地理の教科書では、ブラジルのところにほんのちょっと、公民の教科書には外国人問題と一緒に少し移民の話。うちの息子も十二年間義務教育を学んできたが、今回一緒に来るまでは日系人のことは全然しらない状態でした」と説明する。
本庄さんは『新ぼくらの太平洋戦争』など約十五冊の自書・共著があり、平和教育、歴史教科書問題などの論者として知られている。
「南米移住史を教科書に載せるということは、移住政策に関わる日本政府の責任を明確にすることでもあります。例えば〃棄民〃という言葉一つとっても、使うべきだという人と、そうでない人がいる。その辺の話をもっとみなさんにお聞きしたい」と熱く語った。
京都府宇治市槙島中学社会科教師をする本庄さんは、息子の晶人さん(一九)と共に二十一日に来伯、予備調査を兼ねてアリアンサ移住地で講演をしてきた。九月からは、実際に授業で移民史の勉強を教える予定だそう。
「日本の子どもには、なぜ日系の子どもたちが日本語をしゃべれないのか分らないし、なぜ日本に来ているのかも分らない。遅きに失したとはいえ、今からでも教科書に載せて、南米の移住史を学校で学ぶことが重要ではないかと思います」
今回調査した内容は、歴史教育者協議会が編纂する社会科教師の専門月刊誌『歴史・地理教育』にも「南米移民史特集」という形で掲載される予定だそう。「まず社会科教師が変わることで、徐々にそれが広がるのでは」と考えている。
「問題は、日本にも移民史の専門家がいないことです。文化人類学やデカセギ研究者はいるが、南米移住史研究者がいない。だからアリアンサの歴史認識に関する誤解もうまれた」と指摘する。
本紙上では、現代座の木村快さんや弓場農場の矢崎正勝さんらの投稿でおなじみの問題、アリアンサ移住地について事実と違う歴史が書かれている『長野県の歴史』を出版する山川出版や、『満蒙開拓青少年義勇軍と信濃教育会』の大月書店とも連絡をとった。「訂正を含めて、検討作業に入っている」との返答をもらっているという。
八月二十七日晩、本庄さんは帰国したが、来年再び調査に訪れる予定だという。