つい涙を誘われた。
故郷をいつまでも忘れずにね―。平良とみさん独特のおばぁ口調に、大島保克さんの島唄「イラヨイ月夜浜」が絡む。〈月夜浜には花が咲く ゆりのような花が咲く〉
月と花。哀切なメロディーでこれを歌われると、感傷に傾くのを嫌う人でも涙腺が緩むのを禁じえないところがある。
文協の安立仙一前事務局長の訃報に触れ、〈知床の岬にハマナスの咲く頃…浜に出てみれば月は照る波の上…別れの日は来た〉の歌が浮かんだ。
安立さんの出身は北海道紋別。夫人との訪日里帰りを楽しみにしていた矢先の出来事だったという。病床でオホーツクの波間に揺れる月と、故郷に咲き乱れる真っ赤なハマナスに涙したかと思うとやりきれなかった。
改革、世代交代の喧伝の中、文協を長く支えてきた一輪の花がいまひっそりと落ちた。 (大)
03/08/19