旧市街を中心に発生した空きビル占拠事件。二十九カ所に約三千人が不法侵入し、巷間をにぎわせたのはまだ記憶に新しい。
そのひとつだったサン・ジョアン通りの旧テルミヌス・ホテル前を先日通りがかった。〃住人〃の気配は消え、割れた窓ガラスと落書きが痛々しく映った。
付近のバーでよく歌っていたサンバ歌手ノイチ・イルストラーダの七日ミサの日だった。天国でいまさぞ嘆いているだろうと思う。
ただでさえ往時の旧市街の面影は薄れ、ビンゴや新興宗教の集会場が目立つ昨今だ。サン・ジョアンを歩く晩年の彼を見かけたことがある。すれ違いざまに、五、六〇年代のサンパウロが香った気がしたものだ。
急激に移り変わりゆく街の風景が彼の寿命を縮めたといえなくもない。四五〇年祭を半年後に控えたサンパの街角でそんなことを考えさせられた。 (大)
03/08/12