8月2日(土)
「matacao(「丸石」の意=主人公・日本移民青年の苗字もイシマル)というポ語題名も最初から考えていた。今回、ポ語版を読んでみたら、まるで元々の言語に〃翻訳〃されたような感じでした」。ヤマシタの言葉は、日本語・英語・ポ語が交錯する独特の比喩に満ちている。
七月二十九日午後七時から国際交流基金日本文化センターで行われた『Matacao, uma lenda tropical』(zipango社、二十五レアル)出版記念座談会で、アメリカ日系三世である著者カレン・テイ・ヤマシタの口から、いろいろな著作秘話が披露された。百人以上が集まり、会場には立ち見まで。
原本は英語で、四刷まで発行されているロングセラー。すでに日本語版『熱帯雨林の彼方へ』(白水社)も出版され、高い評価を得た。ブラジルへ移住した日本人青年が織り成す不思議なフィクションで、サンパウロ市に九年という著者体験が大きく反映されている。
一九七五年に彼女は日本移民を人類学的に調査するためにブラジルへ来て、東洋人街の隣、ベラ・ヴィスタ区に住みついた。「私の祖父は一九〇〇年頃に移住したから、私は三世。でもブラジルで出会った日系同年代はみな、二世だった。まるで私の親のように、コミュニティはどうあるべきかとか、その将来を心配していた」と奇妙に感じた。
「でも、ここのコミュニティはとても温かく、心地良かった。アメリカのそれはもっと乾いた、堅い感じがします」
翻訳を担当したクリスチーナ・ステーヴェンスさんは「一言で言えば〃美味な叡智〃でしょうか。とっても刺激的な体験でした。普通の翻訳とは違って、ポ語を意識した英語を本来のポ語に戻す、という感じかしら。しかも、そこには日本的な叡智に溢れている」と興奮した面持ちで吐露する。
「例えば英語の原文にもSaudadeはそのまま使われている。翻訳不可能な言葉ですよね、実際」
ロサンゼルス、東京、サンパウロ。世界有数の巨大かつ多文化が交錯した都市群を住み歩いた著者が、処女作舞台に選んだのはブラジル。「八四年、九年ぶりにロスへ戻った時は、色々なものが変わっていて、生まれた場所で〃移民〃になった気分でした」。
本書ポ語版についての問い合わせはzipango社(村山サンドラ=011・3082・4188)まで。