7月1日(火)
【エスタード・デ・サンパウロ紙二十九日】南伯諸州で地主連合と農地占拠運動(MST)が対峙(たいじ)して一触即発の状態にある中、農村農牧委員会(CPT)のトマス・バウドイノ代表は二十八日、農地改革は政府が計画しているような不毛なへき地への入植ではなく、肥沃で生産と生活が保障される地域への入植を要求する声明を発表した。特に入植希望者が集中しているサンパウロ州やパラナ州、南マット・グロッソ州では、棄民のような配耕は容認できないと述べた。
サンパウロ州プレジデンテ・プルデンテ市を中心に半径五百キロメートルの地域を照準に、農地占拠運動が集結している。MSTが計画している農地改革は、政府のそれを上回り、さらに大規模なもので農産加工コンビナートを中心とする農業団地建設とされる。サンパウロ州やパラナ州、南マット・グロッソ州にまたがる肥よくな地域への入植を試み、活動を先鋭化している。
MST企画部長とされるジョアン・P・ロドリゲス氏は、これまで政府は農地改革を失業対策の一環と考え、農民をへき地へ追放していたと述べた。それが新政権によってMSTは、先祖の土地へ帰り長年の夢「理想郷」建設が実現すると信じているという。
新カヌードの編成と呼ばれるMST大部隊の作戦は、周到だ。農地改革院の調査では、パラナ州に集結したMSTは、一万三千家族に膨れ上がっていると報告している。MSTが狙うのは水力発電所に近く送電設備が整い動力源が確保でき、国道に近く陸上輸送に有利で、消費市場として大都市が近くにある戦略地点としての地域だ。
MSTの活動に神経をとがらせている地主連合のリーダーは、MSTが段々正体を現してきたとみる。MSTは烏合(うごう)の衆でもなければ農業生産のための土地要求運動でもない。背後で大物が操る政治組織だと糾弾した。農業が輸出の四〇%を支え雇用の三七%を創出する現在、ブラジル農業の将来性に伸びる国内か外国の黒い魔手だというのだ。
別の見方もある。大地主時代の亡霊が、蘇生して貪欲な手を伸ばしているという。目を付けていた農場にMSTを送り込み、食料を補給する。扇動されたMSTとの摩擦に嫌気が差した地主に、安値で農地を売らせる。またMSTが入植したら、二束三文で農地を買い上げるというもの。
パラナ州では一万三千家族、約八万人が、掘っ建て小屋で入植を待機している。農地改革院は、入植地物色のため奔走中だ。しかし、限られた予算でMST注文の肥よく地を購入して入植地を造成するのは、不可能とされている。
一方PT内では、未利用地の農地解放をうたった現行法を見直す動きがある。
またMSTの運動員らがスラム街や低所得地域を回り、食料が配布され待機中は遊んでいて生活できるMSTへの参加を募っている。微妙な空気にあるMSTの集団地に、油を注いでことをあおる戦略のようだ。