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愛知県警から出向・大熊領事が語る=デカセギ大国=愛知県の現実=住民との摩擦や少年犯罪

6月24日(火)

 現在、日本国内最多となる五万五千人の日系ブラジル人を抱える「デカセギ王国」愛知県。目立ち始めた犯罪や住民とのいざこざなどの最前線に立つ愛知県警から、サンパウロ総領事館に着任した警備・安全対策の大熊博文領事に話を聞いた。(下薗昌記記者)
《日系ブラジル人とはゆかりの深い愛知県警からの出向となる》
 犯罪捜査だけでなく、愛知県内では身近な存在であるブラジル人と日本人との「共生」の一端を担いたいと思っていました。ブラジル人の生活習慣や気質を知ることは、将来的に大きなメリットになると思ったので、サンパウロ総領事館での勤務を希望しました。
《言葉だけでなく、食事など日本とは全く異なる生活環境だ》
 サンパウロでの勤務を目指したときから、日系人にポルトガル語は習っていました。まだ、たどたどしい言葉だけど町中でブラジル人に尋ねても必ず親切に答えてくれるし、日系人が多い国だけに「ガイジン」扱いの視線を向けられることも少ない。愛知にはブラジル食材店も多いのでフェイジョアーダも食べていたし、ブラジル人に習ってパステルなども作ったことがありますよ。日本人がこんなに暮らしやすい国はないですね。
《まだわずかなサンパウロでの勤務だが、驚きも多い》
 人なつっこさと親切さは、日常痛感します。それだけに凶悪犯罪とのギャップが大きいように思います。また、先日も刑務所の見学に行ったのですが、家族との接触はもちろん物の授受など、日本と比べて余りにも自由が多すぎるように思いました。これでは罪の意識は感じにくいでしょう。
《近年、全国的に増加傾向にあるデカセギの犯罪と愛知県も無縁でない》
 確かに強盗や窃盗などは多い状況です。計画的な犯行よりも刹那的な事件がブラジル人には多いように思います。ただ、より深刻なのは少年犯罪です。デカセギの両親に連れられた子供たちが、ドロップアウトして犯罪に走ってしまうケースが大半です。お金を稼ぎたいのは分かるが、もう少し子供の教育にも関心を持ってもらいたい。あくまでも夢ですが、日本にデカセギに行く日系人に、子弟の教育の重要性や生活習慣などを説明する機会があればいいなと思うこともあります。
《数多くのデカセギが居住する保見団地などにも足を運んだ経験を持つ》
 交通手段が車に限られた「陸の孤島」のような団地に住む一万千人のうち、日系人は三千五百人を占めます。フェイラなども出るし、とにかくブラジル人が目に付くので日本の中では異様な光景です。騒音やゴミ問題など日本との習慣の違いでトラブルが生じていました。また、ここの子供たちは日本語も話せない上に、母国語のポルトガル語までが文法的に乱れるなど教育の問題が指摘されています。
《デカセギの母国での貴重な経験は、将来にどうつながるのか》
 邦人の安全対策はもちろんですが、ブラジル側にも交番制度の導入など、日本のよい点を学んで治安改善の一端を担えればと思います。将来的には県警本部に戻るのか、数多くのデカセギを抱える豊田警察署などに配属されるのかは分かりません。ただ、せっかく得たブラジルでの体験やポルトガル語を取り締まりには使いたくはありません。地域住民と日系ブラジル人が共生するための架け橋に貢献していきたいと思っています。
 ※大熊博文領事、三十七歳。北海道生まれ。愛知県警では刑事部や警務部などに所属。