5月21日(水)
【ベージャ誌】ジョゼ・L・クトラーレ氏は、世界のオレンジ・ジュースの三〇%を生産する。ブラジルはかつて砂糖とコーヒーで黄金時代を築いたが、今回は世界のオレンジ・ジュース市場で全消費量の七〇%を生産し、世界市場を支配している。この産業界で柑橘(かんきつ)王として君臨しているのが、スッコシトリコ・クトラーレ社の総帥クトラーレ氏だ。同氏の横顔をのぞいてみる。
スッコシトリコ・クトラーレ社は、現社長の祖父によって創業された。祖父はシシリー島で柑橘園を経営する傍ら、柑橘の仲買商も営んでいた。一家は二十世紀初頭、ブラジルへ移住した。そしてサンパウロの中央市場で柑橘の仲買商を始めた。しかし父の代で同社は第二次大戦に遭遇、敵国資産に指定され閉業を余儀なくされた。一家は困窮のどん底に陥り、辛酸をなめ尽くす。
十一人兄弟の末っ子である当代社長が戦後、廃虚となった同社の経営を引き受けた。まずシシリー島出身者、いわゆるイタリア・マフィアのツテを利用して欧米へ柑橘輸出を精力的に手掛け同社を再建した。一家はようやく初期移民の苦節時代を抜け出し、中流階級の仲間入りをした。
そのころBCN銀行のペドロ・コンデ頭取の知遇を得、共営で小さなオレンジ・ジュース工場を入手した。同社はいまやジュース産業界では、石油のOAPECと同様の存在で君臨する。同社の強みは、柑橘生産者から原料を買いたたくこと。泥沼を泳いできた同社長の評判は、アララクアーラ地方では極めて良くない。
シシリー商法には、不景気という言葉がない。法外に安い買値と法外に高い売値を設定し、利益幅の確保を最優先する。組織の柑橘を仕入れた八百屋は指定値段で売り、もうけることを強要される。特価販売や出血サービスはご法度。ライバル店か監督官かが商売に不都合なことをするなら、組織が手を打つ。
クトラーレ社は五大オレンジ・ジュース企業の筆頭で、五社は買い付け価格の上限協定を密かに締結している。まず同社の買い付け係が柑橘畑へやって来て、常識外れの安い指し値で土地つきの柑橘を買うという。拒否すると、来年は誰もここの柑橘を買わないと脅す。生産者は同社との問題を避けるため、言い値で売る。これがオレンジ・マフィアの常とう手段だ。
クトラーレ現社長は、大の写真嫌い。シシリー島の出身者の習慣で、どこにも顔を出さない。冒頭の写真は、PT政権の経済開発審議会に招かれてブラジリアへやって来たところを撮影した貴重作品だ。資産は五十億ドル、ブラジルの長者番付では一、二位を争うといわれる。
クトラーレ社に出荷していた柑橘生産者二百人には、それぞれ五百万箱を収める契約書がある。同社は都合の悪いときは、正門を閉じて受け取りを拒否する。柑橘を腐らせた生産者が、同社へ抗議しても取り合わない。堪忍袋の緒が切れて裁判所へ訴え、判決が出たときには柑橘が値崩れするし大半を腐らせた後だ。生産者が同社に煮え湯を飲まされた思いは、再々のことで憤まんやる方ない。