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日系としての目覚めを=赤間学院=新しい日系ルーツ教育=ヤマザキ監督が講演=監督の母は元〃校長〃

5月9日(金)

 日本移民の歴史を描く映画『ガイジン2』を制作中のチズカ・ヤマザキ監督が、セントロ・エドゥカショナル・ピオネイロ(以下、赤間学院)で七日午前十時から講演会を行った。日系校としては最も伝統のある赤間学院が、同監督と共同で今年から始めたルーツ(出自)をテーマとする文化教育の一環だ。当日は次から次へと生徒が質疑に立ち、ヤマザキ監督は一つ一つ丁寧に回答を返した。

 この教育プロジェクトは、ヤマザキ監督が以前から構想していたもので、映画『ガイジン』を学習のきっかけとし、生徒が自らのルーツを認識し、日本移民史や日本、デカセギ現象に対する興味と関心を深める文化教育として計画された。
 小中学部校長のヴェーラ・ルーシア・デ・フェリセさん(イタリア系)は「今年からこのプロジェクトをはじめ、明らかに自分のルーツを尊重する機運が生徒たちの間に生まれてきている。自らのアイデンティティを真摯に問い直す生徒の姿に、私自身も影響をうけ、心を洗われる思いです」と教育効果を強調する。
 今年初めから、生徒全員が映画『ガイジン』を授業の中で鑑賞し、学年ごとに日本移民史や日本を研究する課題に積極的に取り組んできた。その成果として、当日会場となった大講堂には、生徒自身の手による約百枚の研究発表展示が張り巡らされた。講演会に参加したのは中学部、高校部の生徒約二百人と父兄、教師の約百人。
 午前十時から『ガイジン2』のプロモーション・ビデオが上映されたのに続き、十五分ほどヤマザキ監督が「文化的アイデンティティ」と題する講演を行った。生徒からは「規制の多い軍事政権時代に映画を製作した苦労は?」「撮影する上での基準は?」などの質問が次々になされた。
 その質問に答える中で、ヤマザキ監督は次のように『ガイジン2』の意義を語った。
 「人は一般的に、テレビや映画、新聞、雑誌などで、特定の人種を見れば見るほど、それに価値を置くようになる。逆にいえば、そこから除外されているマイノリティは、価値を認められない」と現状を分析。
 さらに「最近、欧米の影響もあって、黒人系俳優たちはマスコミ界に圧力をかけ、媒体への露出度を増やしている。それに比べ、日系や東洋系は露出度が大変少ない。確かに、あまり主張しないことは日本的文化の一端かもしれないが、ブラジル社会の現実から考えれば、もっと東洋系の存在感があってもいいはず。私の映画は、その意味でも東洋系に新しい価値を与えるものになるはずです」と熱く訴えた。
 ヤマザキ監督の母・秋吉すみこさん(八〇)は実は、一九四二年のサンパウロ女学校(赤間学院の前身)卒業生で、その後も、教師をしていた縁がある。赤間アントニオ晃平第一副理事長は「戦時中のことで、学校はブラジル人名義でなければ、経営できない時代でした。その頃、秋吉さんは数少ない二世で、母(赤間みちえ、創業者)からの信任が厚く、名義上の校長になっていただいたこともありました。つまり、彼女の双肩に、我が校の将来がかかっていたわけです」と当時を懐かしむ。
 三年前、同学院は高校部を新設し、教師もあちこちの有名校から引き抜いてきたばかり。今回のルーツ教育には教師陣一同、最初は困惑したという。「他の学校ではやったことなかったので、我々自身が勉強と試行錯誤の連続でした。最初は生徒も引っ込み思案な様子でしたが、すぐに活発な議論になり、ほっとしました」とある非日系の高校部教師は語る。
 約八百五十人の生徒中、九割近くが日系人という同伝統学校が、ヤマザキ監督と組んで、新しい形のルーツ教育を本格的に始めた意義は大きそうだ。
 ヤマザキ監督はこれまで大学の映画学科等の学生に対し、専門的な講演会をしてきた経験はあるが、中高校生向けに講演をするのは始めて。講演後、「やはり、ルーツを考える教育は小さい頃からやることが重要。今後も、教育プロジェクトを続け行きたい」と豊富を語った。