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ペルーからの報告=フジモリ 待望論はあるか(1)=血と地の宿命の中で=懊悩する日系社会

4月23日(水)

 南米で初めて日本からの移民政策がとられた国、ペルー。日本移民の歴史が始まって九一年目の一九九〇年六月、日系二世の大統領、アルベルト・フジモリが誕生した。この未曾有のニュースに世界中が注目し、日本はフジモリ現象といわれるほどの熱狂振りを見せた。しかし、十年後の〇〇年に大統領の日本逃亡という誰もが予想しなかった最悪の形で幕を閉じたフジモリ政権。同政権が残した問題は現在、日本・ペルー政府間の国際問題にまで発展している。その間、一定の距離を保ちながら、冷静かつ慎重な立場を守ってきた地元日系社会。一連のフジモリ問題に翻弄されたペルー日系社会の激動の十年、そして現在の表情を現地取材で探った。

 町角に立つキオスコと呼ばれるバンカの前で人々が立ち止まり、一面の記事を読んでいる人々の姿は他の南米の国と同じく、街の風景の一部ともなっている。
 洗濯バサミで連ねられた大手新聞や専門紙などが、キオスコを覆うカラフルな蓑のようだ。一面に踊るトップ記事の見出しには、人々の興味をひくような事故現場の写真や肌も露な女性がほほ笑んでいるー。
 その中に常連のごとく登場する、ある東洋系の顔―。フジモリ前大統領である。
 失脚後数年を経た今でも、当時の政権批判やフジモリ個人への中傷としか思えないゴシップ記事などが連日のように続き、もはや人々の脳裏には(フジモリ=犯罪者、独裁者)というイメージが焼きついてしまっているようだ。
 マスコミによる過剰なフジモリバッシングに対しては、さまざまな憶測が飛び交っている。
 「今までの慣例であったメディア機関との裏取引などを拒んだフジモリ政権に対しての復讐」、「現政権によるフジモリの次期選挙への復帰の可能性の阻止」などで、「人種差別によるもの」と見るむきも多い。
 一般的に批判の対象となっているのは『大統領の職務放棄罪』や陰の支配者と呼ばれ、大統領の特別顧問であったモンテシーノスに対しての責任問題、日本での不正蓄財疑惑などが挙げられる。
 〇一年には、「九一、二年に軍が市民二十五人を虐殺した事件に関与した」として、フジモリは当局から起訴されているが、〇三年四月現在、殺人罪や汚職などに関する証拠はまだ見つかっていない。 
 国外では、今年三月二十六日に、国際刑事警察機構(ICPO)が、ペルーの警察当局の要望により、フジモリ前大統領の国際手配の通知書を発行した。
 それに対して福田康夫官房長官は、同月二十七日に『日本の法律上、身柄の拘束はできない』といった内容の会見を行い、日本政府にフジモリを拘束する考えがないことを明らかにした。
 もはやペルー国内に止まらず、今や両国間の国際問題にまで発展してしまったフジモリの問題ー。
 ペルーのマスコミや市民間での議論が過熱する一方、表面上は無表情を装う反面、戦々恐々としているのが五万とも八万ともいわれる日系社会である。
 ペルーで出会った多くの日系人と話している際に、フジモリについての話題に触れると誰もが説明しようのない、苦笑にも困惑にも見える表情をその顔に浮かばせる。 
 「日系人が築いてきたイメージを傷つけられた」「フジモリの功績は認められるべき」「帰国して説明責任を果たす義務がある」「そっとしておいて欲しい」
 各個人の意見はそれぞれの立場、状況によって様々であり、当然二世、三世の捉え方にも大きな違いがある。それは日系社会全体として整理のつかない『継続的』問題といえる。
 継続的―といえるのはフジモリが沈黙を守っているわけではなく、昨年の六月には亡命中の日本でフジモリは毎日新聞の取材の中で〇六年の大統領選への強い意向を示し、個人のホーム・ページ『日本から』内でも、トレド現政権に対して、厳しい意見を記事、論文の形で公表するなどの活動を行っているからだ。
 前大統領が日系人であったー、ということからペルー社会の中で翻弄され始めた日系社会。『日本とペルー』という逃げようにも逃げられない血と地の宿命の中で、日系人たちの懊悩は少なくとも次期大統領選の〇六年までは続くのだろう。
 政治的、人種的、アイデンティティの問題までが絡み合った複雑な状況の中、果たしてフジモリ待望論はあるかー。
    (堀江剛史記者)

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