日本人の風呂好きは昔からのことらしい。仕事の疲れを癒すのが風呂ならば、歓楽を尽くすのにもお風呂。古くは蒸し風呂が一般的だったらしく京都の寺かで鎌倉時代に使用されたというのを見学したけれども、規模も大きくお坊さん方がここで汗を流したのかと思うと気が引き締まるような思いがしたものだ。湯船にたっぷりと湯を張ったのはずっと後年になってからだという▼江戸になると今の銭湯にあたる湯屋が流行し始める。「丹前」が持て囃されたり、湯女に溺れる人が現れたりもする。公衆浴場だし客も遊びがてらに出かけたものらしい。将棋に耽る向きもいれば軽く盃を傾けるご仁もと─湯屋はお客たちの歓談の場所でもあったわけだ。時には街の噂も話題に選ばれたろうし、情報交換の場でもあった▼とは申しても一般の家庭で風呂場を持つのは禁じられる。江戸は火事が多い。これを防止するための措置とされるが、庶民も苦にするようすもなく湯屋に通ったようだ。今のように何処の家庭にも風呂があるようになったのは、昭和も三十年代になってからと見ていい。それにしてもどうして日本人は風呂好きなのか。恐らくは、湿度が高いために汗っかきなためだろうし、西洋流のシャワーだけではどうも物足りない▼頃は秋。湯船に静かに浸かるのにはいい季節である。誰の発明になるものかは知らないが「電気湯沸器」なる貴重で便利このうえない物もある。今晩も湯船の豊かな湯に手足を伸ばせば一日も仕事の疲れも消えて行く─。 (遯)
03/04/10