ホーム | コラム | 樹海 | コラム 樹海

コラム 樹海


 カルナヴァルを彩るサンバの激しい響きが静かになり灰の水曜日を迎えると急に涼しさが増してくる。毎年のことながら秋が近づき野や山の色も変わってくる。海岸山脈を白色と淡紫色で染め尽くすクワレズマは四旬節の名を借りたものながら何となく寂しさを感じさせる花だから不思議といえば不思議だ。その昔─失恋の花と教わったけれども、真偽の程は置くとしても、これもよくわかる▼念腹に「ジャカチロン(クワレズマの異名)海までの山なお一つ」がある。アンシェッタ街道を下ったのかもしれないが、恐らくは「海の道」と呼ばれる旧街道を通ったのに違ない。かなり曲がりくねった山の道のように覚えているが、杣人が歩むような山にポツンと咲き乱れるクアレズマなら風趣もなおましたと思われる。あの峻嶮な難路なら「山なお一つ」がひときわ光りを放つ▼編集局のすぐ側に紫紺野牡丹が華麗な花を咲き誇っている。クワレズマの一種でサンパウロの街にはかなり多い。喬木で樹高は十数メートルにもなり枝という枝には真紫の花を惜し気もなくつける。咲き乱れる花びらの紫が今頃になると一段と鮮やかに濃くなったように映るのは気のせいばかりではあるまい。暦のうえでは夏ながら─もう秋なのだ▼夜半ともなれば涼気が心地よく肌を走る。朝方に毛布一枚では少し寒いくらいなのは高齢のなせることかと目覚めたりもする。もう一枚、薄手の夏布団でも重ねる日々がしばらくは続くだろうが、秋の涼しさを楽しみ涼気を胸いっぱいに吸い込む秋だ。   (遯)

03/03/08