2月13日(木)
「昨年は十七回、アルファッセ(レタス)を収穫しました」。一回当たり二十一日間、かなりの数字ではないだろうかー―。
視察旅行二日目、朝七時半にホテルを出た一行は、最初の視察地イタペセリッカ・ダ・セーラ市の原農場に到着。出迎えてくれたのは原フミオ・オズワルド(三世、三〇)さんは水耕栽培の専門家だ。四千三百平米の施設面積の大半をアルファッセ栽培に使う。
連作障害で悩んでいた原さんが水耕栽培に切り替えたのは五年半前。緩やかに傾斜する地形を上手に使って、水耕栽培用のパイプが整然と並んでいる。低い方には細めのパイプで苗から十日間ていど育て、そのあと太いパイプ(三インチ)に移す。「苗の段階で病気が出始めるから、それは全部間引いて良いものだけを植える。その後に病気が出るのもあるけど、土に比べればはるかに少ないし、ナメクジもチューブを上がってこない」という。
最大の秘訣は〃水の管理〃にあるようだ。天候ごと、気温ごとに水の循環サイクルを微妙に調整する。現在は二十分流して、二十分止める周期にしている。水には養分(肥料)が溶かしてあり、一番低地に貯水槽を作ってモーターで上げて循環させている。
「養分は決まったマニュアルがあるから、それを守るだけ。出来合いのも売っているけど、高くつくから自分で配合してます」。水源は井戸水で三週間から一カ月で取り換える。「藻が出たりすることはないが、水道管の鉄分が溶け出してくるのが問題」という。
一段落したところで、作業小屋でカフェをご馳走になる。いつも元気なアルゼンチンの海蔵寺さんが一口飲んだ途端「僕がこっちきたときだよ。途中のブラジルでカフェを飲んだ時、思わず〃こりゃ、美味い〃と思ったよ。だってあの当時の日本じゃ、混ぜ物ばっかりのコーヒーだったからね」としみじみと語りはじめた。
そのカフェを飲んだ一九七一年、海蔵寺さんは多感な十八歳だった。前年に高校を中退し、単身移住を決め、溢れんばかりの夢を叶えるはずの移住地に到着する直前に飲んだカフェ…。
ふとその時、皮肉なことに、昨晩シュラスコで聞いたコーヒー豆農場主・下坂さんの話を思い出した。「いい豆はね、国内に出したって採算とれないんだよ。だから、ノルデスチ(北東部)の方なんかで、ひどいとこでは、トウモロコシやカスカ・グロッサ(カフェの厚い殻)を二〇%ぐらい混ぜるところがあるそうだ。カスカ・グロッソにもカフェインが含まれているから、濃くして砂糖をいっぱい入れれば分からない。でも、僕らが飲めば、舌に渋みが残るからすぐ分かる」。
若き海蔵寺さんが飲んだのは、どんな味だったのだろう。 (深沢正雪記者)
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