1月30日(木)
ブラジル音楽に「救い」を求める日本人が目立つー。
「パワーを下さい」
二ヵ月にわたった日本でのコンサート・ツアーを終え、先日帰国した歌手青木ノゲイラ香奈さん(サンパウロ市在住)の頭からはいまもこの一言の響きが消えない。ライブの途中、ステージ前に突然押しかけて来た観客から、そんな風に叫ばれ、面食らった。
なんでも、ブラジル音楽はいま、ボサノヴァを中心に日本人の間で、「癒(いや)される」音楽として、人気が高いらしい。
「八年前にもコンサート・ツアーを行ったのですが、そのときとは比べものにならないほど、ブラジル音楽が浸透している。それだけ日本が不況になり、世の中が不穏になったということでしょうか」
ツアーには作詞家で演奏家の夫レオ・ノゲイラさんも参加した。首都圏・関西地方のライブハイスを中心に行脚し、夫婦公演は約三十を数えた。
東京に住む青木さんの両親も同行したという北海道では「自然の家」や、障害児の保育施設でも歌った。「家族でキャンピング・カーに乗って寝泊まりしながら、移動していました」。つかの間の休息、訪れた温泉地では、レオさんが青木さんの父親の背中を流した。
青木さんの楽曲にはレオさんの出身地ノルデステ地方のリズムとメロディーからの影響が色濃い。ボサノヴァと違って、まだまだ日本ではなじみが薄いが、「日本の祭りばやしと共通点がある。ノルデステの民衆音楽の多くも農業の伝統的祭事から生まれて来ているでしょうから」。楽器を手にした観客がステージに飛び入りで参加するなど、反応は上々だった。
現在は二枚目となるアルバム制作に向け、張り切っている。今度の訪日で得た経験から、「音楽というのはやっぱり演奏者と楽曲との対話で成り立つ。日本人がブラジル音楽をやるのなら、無理にブラジル風にする必要もない。日本人らしさが自然に出てくる方がいいのでは」と痛感した。
新作アルバムには日本語の楽曲も数曲収録される予定だ。これはブラジル音楽に「救い」を求める日本人にもうれしいこと。日本語ならば直接感情に伝わってくる。
「日本で流行している最近の音楽はメロディーよりもリズム重視の傾向にある。でも、ブラジル音楽は両方を備えている。元気になれる音楽です」
ブラジルを拠点に音楽一本で生きていく、「腹が据わってきた」と話す青木さん。日本でのツアーは「二年に一度くらいの間隔で出来れば」。ラテンのパワーがみなぎる”癒しの女王”の来日を、日本のファンは首を長くして待つことになりそうだ。